第三十四話 自分の甘さを呪う
――事情を聞いたパストラたちは、修道士と共にロトンのいる教会へと向かった。
その事情とは、突如、パルマコ高原に現れた骸骨の集団についてだった。
アンデッドというのは、どう考えても異端術師か悪魔が関わっている。
いろいろと気に食わないことは多いものの、聖グレイル教会の異端審問官としては、この事態を見過ごすことはできない。
「話は聞きました、ロトン神父」
教会に入るなり、リーガンは会議の中心にいたロトンに声をかけた。
周囲にいたロトンの弟子――修道士たちが、彼女ら三人が現れたことに笑みを浮かべていたが、リーガンはそんな彼らの態度に
こないだろくな証拠もないのに異端者扱いをし、処刑しようとしたくせによくそんな面ができるなと、怒りで顔を強張らせている。
「まさか来るとは思わなかったが」
「私もずいぶんと面の皮が厚いなと思いましたよ。昨日今日であなたたちがパストラとユニアにしようとしたこと、すぐに忘れるはずもないのにねって」
だがそんな修道士たちと違い、ロトンはリーガンたちをあまり歓迎していないようだった。
彼は嫌味をいったリーガンに冷たい視線を向けると、すぐに目をそらして会議を再開し始める。
そんなロトンの態度に我慢ならなかったのか。
リーガンはフンッと鼻を鳴らすと、その場から去ろうと入ってきた扉へ歩き出す。
「ちょっとリーガンさん!? ここまで来たのに帰っちゃうんですか!?」
「違う! もちろんパルマコ高原を守るためには戦うけど、でもあんな言い方されてこいつらと共闘なんてできないでしょッ!」
「それでも協力したほうが被害を出さずに済みますよ。ロトン神父や修道士の皆さんは僕らよりも土地勘があるんだ。ここは手を取り合ったほうがいいに決まってます」
「それは……そうなんだけど……。くぅッ!? でもこいつらがあんたやユニアにしたことだってあるし――ッ!?」
リーガンが声を荒げた瞬間に、パストラは彼女の手を取って笑顔を見せた。
彼の背後では、なぜだかユニアがウットリしてその身を震わせ、悶えている。
「僕たちのために怒ってくれてるんですね。やっぱりリーガンは優しいです。でも、僕は気にしてませんから。ユニアさんも大丈夫ですよね?」
「当然です。運命の人がそういうならば、たとえ火あぶりになってもロトン神父に協力しますよ」
パストラに声をかけられたユニアは、急にシャキッと襟を正して答えた。
それでもリーガンは納得がいかないのか、二人の言葉を聞いても顔を強張らせたままだ。
だが結局は折れて、不機嫌そうにしながらも、ロトンたちと協力することを承諾する。
実際に酷い目に遭わされそうになった二人が受け入れているのだ。
それなのに、自分だけがワガママをいうわけにはいかない。
「話は終わったか? ここに残るつもりなら、君らにも手伝ってもらおう」
三人の会話を聞いていたのだろうロトンは、パストラたちにそう言うと、突然現れた骸骨の集団への対処について話し始めた。
どうやら現場から逃げてきた修道士の話からするに、骸骨の集団を指揮する者がいるようだ。
さらに細かい話を聞いていくと、その中にはパルマコ高原に住む人たちの姿もあるらしく、その数は襲撃をしながら増えているらしい。
聖グレイル教会もとい、ロトンの統治に不満のある町民や村人たちが集まってきているのだろう。
そしてそれを指揮する二人もすでに確認されており、一人は絵の具を飛ばしたような白黒の柄のローブを羽織った青年で、もう一人は灰色の髪をした少年だという。
「灰色の髪の子って、まさかロワじゃ……」
リーガンの口から声が漏れた。
彼女とパストラは異端審問官としてパルマコ高原を調査していたが、異端術師や悪魔に繋がるようなものは見つからなかった。
しかしロワがシュアの孤児院に住んでいるということと、まだ十歳の子どもである彼の動向に関しては気にする必要がないと思っていた。
仕事でパルマコ高原中を回っているという話も、あくまで一人で孤児院を切り盛りしているシュアの負担を少しでも楽にするために稼いでいる程度の認識だった。
身内ということで異端の可能性はない。
そう判断していたリーガンは、襲撃者たちを指揮している一人にロワがいるかもしれないと思うと、自分の甘さを呪う。
「髪の色だけでロワだって決まったわけじゃないでしょう。それに、もし本当にロワが修道士さんたちを襲っている首謀者の一人だったら、僕らが止めればいいんです」
「その通りだ。おそらく君らの知っている少年は、異端術師に
ロトンは、リーガンを励まそうと声をかけたパストラに、意外にも同意した。
彼の予想では、おそらくはロワはその白黒の柄のローブを羽織った青年に焚きつけられ、今回のような行動に出たのだと。
「異端に誘惑されて間違いを起こしたのならば、それを改心させるのも我々の仕事だ。一度目ならば教会の決まりで死刑は免れる」
「パストラたちのことは問答無用で殺そうとしたけどね」
皮肉をいったリーガンを無視し、ロトンはこれからのことを話し始めた。
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