第三十二話 異端の芽
そう言った後、パストラはまるで罪を告白するように自分の考えを話し始めた。
おそらくだがロトンはファノが聖グレイル教会を去った後に、今のような強引なやり方になったのではないか。
慕っていた師が理由も告げずに目の前から消え、さらに後で理由を聞けば、悪魔憑きの子を育てていた。
細かい事情こそ知らずとも、目指すべき人がそのような理由で聖職者を辞めたと知れば、今のようなやり方になったのもわかる気がする。
パストラは今にも泣きそうな顔になりながら、皆へそう語った。
その内容から、彼なりにずっと罪悪感を抱えていたのがわかる。
育ててくれた恩人である義父のことを知るたびに――。
どれだけ偉大だったのかを理解するのと同時に、そんな人物を自分のせいで引退させてしまったことの後ろめたさが、パストラにはある。
もちろんそれは彼のせいではなく、我が子を大悪魔の受肉体として捧げた両親のせいだ(当時、生まれたばかりのパストラには何もできない状態だ)。
異端審問官の英雄は、戦魔王ダンテの依り代となった赤ん坊を殺すことよりも、自らの魔力のほとんどを失う方法で、その体に封じた。
それはファノ自身の選択であり、そこにパストラの意志はない。
このことから考えても、英雄が教会を去ったのはパストラのせいではない。
だがパストラはあのとき――裁判にファノの名を出したときに見せたロトンの表情から、自分の罪を感じ取ってしまう。
“お前がいなければ、あの人は英雄のままだった”と。
肩を落とし、顔すら上げられないパストラを見たリーガンは、彼に向かって言う。
「たしかにファノさんがいなくなったことで、ロトン神父が今みたいになったのかもしれない。けど、それがあんたのせいだなんて、私はぜんぜん思わないよ」
ユニアもリーガンに続き、パストラの肩にポンッと手を乗せて口を開く。
「マイベストフレンドの言う通りです。あなたは何一つ悪くない。だから、そんなに落ち込まないで、運命の人」
「リーガンさん、ユニアさん……。はい、ありがとうございます……」
弱々しい声を出して答えたパストラのことを、ユニアは抱きしめようとした。
だがすぐにリーガンが彼女からパストラを奪い、まるで卵を守る母鳥のように威嚇し始める。
「なにをするんですか、マイベスフレンド? 私はただ彼を慰めようとしただけなんですけど」
「こんな子どもを運命の人とか言ってる女なんて、警戒するに決まってるでしょ!」
「いえ、だから私が彼と正式に結ばれるのは、ちゃんと彼が大人になってからですよ。それまでは彼を見守り、導く。それが今の私のすべてです。まだマイベストフレンドに伝わってなかったんですかね?」
「いいから近づくな! 百歩譲って話すくらいならいいけど、今後あんたはパストラに触れちゃダメだからね! それと私を勝手に親友にするなよ! 平原で会ったときは私の顔すら覚えてなかったくせにッ!」
パストラを間に挟み、怒鳴り散らすリーガンと、彼女の言っていることを理解する気がないユニア。
そんな三人の絵面が面白かったのか。
他の子どもたちも集まって彼女たちの周りで騒ぎ始めていた。
一番困っているのはパストラだが、集まってきた子どもたちはそんなことはお構いなく彼をからかいながら、リーガンやユニアの服を引っ張って遊び出している状況だ。
シュアはそんな光景を眺めながら、新しいワインの瓶を開ける。
「こりゃパストラは将来、女関係で苦労しそうだね」
そしてグビグビと飲み干しながら、プハッと声を漏らして呟いた。
――孤児院内が盛り上がっている中。
トリスやヒツジたちに餌をあげたロワは、牧場の外へと出ていた。
牧場を出た彼は、しきりに周りを見回しながら、孤児院から少し離れた木の下へと向かう。
「おう、ロワ。なんか教会の連中同士でひと悶着あったんだって?」
木の下には、絵の具を飛ばしたような白黒の柄のローブを羽織った青年がいた。
青年はロワに向かって気さくに声をかけると、パルマコ高原で起きたことを訊ねた。
声をかけられたロワは周りを見回し、誰もいないことを確認してから青年に返事をする。
「ロトンが村を燃やそうとして、それを止めた審問官たちと揉めただけだ。別に大したことじゃない」
「そうかそうか。なら、計画は実行すんだな」
白黒の柄のローブを羽織った青年がコクコクと満足そうに頷くと、ロワは声を震わせながら訊ねる。
「……この計画が成功すれば、おれもクリスさんの弟子、あんたらの仲間にしてもらえるんだよな?」
「そりゃクリスがそう言ったんならそうじゃねぇのかなぁ。まあ、あの人は約束を破るような人間じゃないし、
「そうだ……。おれが守らなきゃ……これ以上
ロワは白黒の柄のローブを羽織った青年の返事を聞くと、拳を思いっきり強く握り込んだ。
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