第二十七話 囚われの身

――リーガンが村にたどり着いたとき、ロトンたちはすでに引き上げていた。


彼女は村に残っていたロワから事情を聞き、事態の深刻さを知ることに。


「じゃあ、ここがユニアの故郷でそれを守ろうとして捕まって、それでパストラもロトン神父をぶん殴って連行されちゃったの!?」


すべてを聞いたリーガンは慌てふためいたが、すぐに自分がすべきことを考えた。


このゴルゴダ大陸では、聖グレイル教会の聖職者の地位は王族や貴族よりも高く、圧倒的な権力を持っている。


特に統治を任された聖職者には以下の権力がある。


·裁判を起こす権利

·裁判の結論を出す権限

·裁判の範囲を広げる権限

·裁判に必要な情報を自由に集めて判断する権限

·裁判に必要な拷問をする権限

·裁判に必要な資金を自由に集める権限


聖職者はこれら権力を使って、各地の異端者を捕らえてその者の財産を没収し、教会へ渡すことが仕事だと知られている。


他にも異端術師や悪魔を処分する仕事もあるが、多くの市民からは先に述べたほうが一般的だった。


さらにいえば無実の者を異端者として裁く者が圧倒的に多く(財産を奪うためだ)、民からすれば畏怖の対象であった。


だがそんな聖職者の中でも、狂乱する町や村へと赴き、鎮静させた者がいる話もある。


それは十年前に戦魔王ダンテから大陸を救った英雄――異端審問官ファノだ。


ファノの有名な話では、とある修道院で一人の修道女が発作を起こしたことで「悪魔に取り憑かれた」と大騒ぎになった事件があった。


それが集団ヒステリーとなって何人もの人間が発作を起こし、聖グレイル教会の上層部はその地域にあったすべての住民を悪魔憑きだと判断し、地域に火を付けようとしようとした。


ありもしない証拠をでっち上げ、すべてを悪魔のせいだといって処分しようとしたのだ。


それを止めたのがファノだ。


彼は聖職者が持つ権限をすべて使い、冷静に証拠を分析し、証言を集めた。


そして修道女や発作を起こした者たちを医者に診せ、これは悪魔の仕業ではなく単なる病気だと確固たる事実を導き出したのである。


それからその地域での騒ぎは沈静化し、多くの者が火あぶりを免れた。


しかし、現在そんなことをする聖職者はほとんどいない。


そもそも聖職者が疑わしき者の財産を奪って、聖グレイル教会を富ませることで大きくなってきた歴史がある。


リーガンはこれまでにも異端術師や悪魔との戦いの経験はあったが、疑わしい者を異端者と認定して裁判を起こした経験はない。


だがこのままではユニアに続き、まさかパストラまでもが異端者として処分されてしまう。


「パストラ、なんで手なんか出したの……。こんなの上の連中の思う壺じゃない……」


特にパストラのことは、今でも聖グレイル教会の上層部が始末したがっている。


処刑の口実を与えてしまったのは明らかな失敗だ。


今考えられるもっとも最悪な結果は二人が火あぶりの刑になり、今リーガンとロワがいる地域が異端認定されて燃やされることだ。


なんとしても回避しなければ――。


そう考えたリーガンは、生まれて初めて裁判に挑もうとしていた。


「リーガン姉ちゃん……。どうしよう、おれ、どうしたらいい?」


「安心して、ロワ。私が絶対になんとかする。パストラたちも村も必ず私が救ってみせるから、手を貸してちょうだい」


――リーガンがロワにそう声をかけた頃。


パストラとユニアは、ロトンの住む屋敷の側にある教会へと連れて行かれ、そこで牢に放り込まれていた。


二人には当然、手枷が付けられ、すでに罪人といっていい扱いだった。


「へー、この枷を付けると、魔力がまったく出せなくなるんですね」


パストラは手枷を眺めながら、どうしてユニアが簡単に捕らえられたのかを知った。


今二人に付けられた手枷は特別な鉱石で造られており、拘束した者の魔力を奪う力がある。


これは聖グレイル教会が異端術師や悪魔などを捕らえるために開発したもので、その名を魔拘束具まこうそくぐという。


付けられた者はたとえどんなに強力な魔力を持っていようと、それを発揮することはできなくなるゴルゴダ大陸では他にない拘束具だ。


おそらくユニアは慌てて火を付けようとしていた修道士たちに手を出してしまい、誤解を解こうとしているうちに魔拘束具を付けられてしまったのだろう。


でなければ彼女ほどの強者がロトンの弟子に負けるなど、パストラにはとても想像できなかった。


「ああ……どうしてあなたまで……」


落ち着き払っているパストラとは違い、ユニアはずっと俯いたままだ。


彼女は自分の失敗にパストラを巻き込んでしまったと思っているのだろう。


その顔は罪悪感で押し潰されそうになっており、パストラのことをまともに見ることもできないようだった。


「大丈夫ですよ、ユニアさん。きっとリーガンさんがなんとかしてくれますから」


「そういうことを言いたいのではありません……。あなたはあそこでロトン神父に手を出してはいけなかった……。どうしてあんな真似をしたんですか……」


「だってあの神父さん、ユニアさんに酷いことをしたんですよ。そんなの許せるはずないじゃないですか」


パストラの返事を聞いたユニアは、その言葉を聞いて思わず顔を上げてしまった。

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