第七話 アドバイス
その次の瞬間には、パストラとユニアはぶつかり合っていた。
互いに魔力を拳や足に込めて放ち、そして相手の攻撃を同じく魔力を纏った腕や足で受ける。
さらに子どもであるパストラは、ユニアとの体格差を感じさせることなく、ほぼ互角の攻防を繰り広げていた。
体重や手足の長さ一つで戦局は変わるガチガチの近距離タイプである二人の戦闘スタイルは、見事なほど噛み合っている。
「あぁ、相性が良いとは思ってましたが、まさかここまでとは……。やはり運命ッ!」
しかし、それでもユニアには余裕が見えた。
いや実際にパストラの格闘技術は大したものだが、ユニアが経験で勝っているのは、その動きからして誰の目から見ても明らかだ。
それでもパストラは怯むことなく、攻撃を繰り出していく。
女性であるユニア相手に遠慮なく拳で顔面を打ち抜き、骨を折らんかの勢いで投げ飛ばす。
捕まえようとユニアが手を伸ばせば、その小さな体を利用して懐へと深く入り込んだり背後に回り込み、頭を掴んで後頭部へ膝蹴りを入れる。
そこからすかさず彼女の正面へと体を移動させ、宙へと飛び上がる。
「休みなく続く連打に耐えられる体力。咄嗟の状況判断も素晴らしい。極めつけは……この凄まじい魔力ッ!」
ユニアの顔面に、パストラの飛び蹴りがクリーンヒットした。
だが魔力を纏うことでダメージを軽減しているのだろう。
もろに顔へ足の甲がめり込んだというのに、ユニアは笑みを浮かべたまま実に嬉しそうに吹き飛んでいった。
「素の腕力でいえば当然、私のほうが上ですが、それを超えてくる魔力量。さらには聖邪が合わさっているせいか魔力の動きが読みづらい」
だがユニアは空中でクルクルと回ると態勢を整え、地面へと何事もなかったかのように着地する。
笑みはそのまま、そして彼女は今度は独り言ではなく、パストラに向かって口を開いた。
「しかぁぁぁしッ! まだまだ甘いですよ、運命の人!」
ユニアはズバッと人差し指をパストラに突きつけると解説を始めた。
並外れた身体能力と格闘技術。
これらには欠点を探すほうが難しい。
さらにはそれ以上に魔力量も文句なし。
今の実力だけでも十分に現役の異端審問官を凌駕する。
「ですが、魔力の扱いが雑過ぎます。惜しい……それだけがとても惜しい。その程度で満足していたら、私たちを阻む愛の試練を超えられませんッ!」
「いやあの……そんなこと言われても……別に愛の試練とかどうでもいいんだけど……」
呆れているパストラに対し、ユニアは言葉を続ける。
「強くなりたくはないのですか?」
「だから僕は強さとかはどうでもいいです」
「それでは大事なものを守れませんよ!」
「ッ!?」
気の抜けていたパストラの表情が変わる。
その顔でわかる。
ユニアの最後に口にした一言だけが、まるで砂が水分を吸うように彼に沁み込んだのが。
「それはヤダ!」
「そうでしょう……私の運命の人!」
そんな二人の問答を見ていたリーガンには、何が問題なのかわからなかった。
もちろんユニアがなぜ突然パストラを運命の人と言い出したり、好意を持ったかと思えば再び攻撃を仕掛けてきたが、何よりも彼女の行為は、パストラを成長させようとしているものだったからだ。
しかし、それもわからない。
パストラとユニアが当たり前のようにやっている魔力を纏う技術は、異端審問官の中でも限られた強者しか使えない強力なものだ。
その技に雑とかそういうのがあるのか?
まさかこの問答はユニアがパストラを混乱させようとして言っているのではと、リーガンは思っていた。
「気にしちゃダメだよ、パストラ! きっとその女は、あなたを揺さぶろうとして適当なことを言っているだけなんだから!」
「私と彼の間に入って来ないでいただきたい! これは二人の問題です! 外野はすっこんでいてくださいッ!」
ユニアはリーガンを黙らせると、パストラの魔力を纏う技の使用方法の説明を始めた。
今のパストラは全身に魔力を行き渡らせて、それを攻撃と防御に使っている状態だ。
それとどういう理屈かはわからないが、光と闇、聖と邪が入り混じった魔力の動きは予想を超える動きをするので、防ぐことも崩すことも難しい。
並みの異端術師や悪魔が相手ならば、とても敵わない一流の実力者と言っていいだろう。
「ですが、それでは格上の異端術師や上級悪魔に通じません。そういう相手と渡り合うには、あなたが体に流す魔力をもっと集中させる必要がある。では、どうすればいいと思いますか?」
「えーと、集中ってことは……魔力を一点に集めて放つってことですか? 全身じゃなくて拳とか肘、膝とか、頭突きなら額とか」
「お見事。正解です。ではもう一つアドバイスさせてもらいます。あなたは極端に頭で考えたり感覚に頼ったりし過ぎている。それら両方の差をなくして使って、もっとバランスよく体と魔力を動かしなさい」
「たしかにそうかも……。うん……言われてみればそうだよね……。ありがとう、お姉さん」
「素直なところも素敵です。それから私のことはユニア、または人生の伴侶と呼んでください。ではいきますよ、運命の人!」
そして、再びパストラとユニアがぶつかり合う。
リーガンは呆れながらも、もう心配する必要はなさそうだと思い、その場に腰を下ろした。
それはユニアは全力でパストラを聖グレイル教会へと連れて帰ろうとしつつも、彼のことを強制的というわけではないと理解したからだ。
「まあ、なんか鍛えてくれているって感じだし、これはこれで――ッ!?」
安心したのも束の間。
リーガンは平原の奥から、凄まじい邪気を放つ魔力を感じた。
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