第14話 思い出 5

          ◆     ◆     ◆


 自己紹介を終えると、教室中から奇異の目線がわたしに向けられました。

 季節は初夏。

 夏卒業が一般的なこの国では、卒業まで残り一月といった時期。

 そんなタイミングで、三年生のクラスに転入すれば、注目されるのは当然でしょう。

 教壇の上から、わたしは奇異の視線を向けるクラスメイトたちを見渡し、そして、見知った顔を窓際に見つけたのでした。

 窓側真ん中辺りの席で、頬杖から顎を落っことして、シオン・フウセンカズラが目をまん丸にしていました。 

 

 休み時間になると同時に、シオンに教室から引っ張り出されました。


「なんでっ!?」


 誰もいない屋上で、シオンに詰め寄られました。けれど、その声のトーンに責めるようなニュアンスはありませんでした。


「あっ? ひょっとして私を監視するために……?」


 シオンが声を潜めました。夜な夜な彼女が空軍の防空圏を侵犯して飛び回っているのを捕まえるのは、ここ最近すっかりわたしの仕事になっていました。ですが、 


「それは関係ありません。別の任務です」


 別の任務と言いながらも、わたしは任務の詳細を知らされていませんでした。ただ、やれと言われたことをしているに過ぎません。


「じゃあ、ピエリスが軍の人間だってことは……」


 わたしは首を横に振りました。教室の自己紹介では、当たり障りないでっち上げの身の上しか語っていません。

 その途端、シオンの唇がにゅぅっと吊り上がりました。


「じゃあ、私たちの秘密だ?」


 呆れました。シオンは自分が触れている物の危険性をまるで理解していなかったようでした。


「卒業まであと一ヶ月だけど、よろしくね? エリーちゃん」


 何の脈絡もなく、シオンはわたしを「エリー」と呼びました。


「え、えりー?」

「ん? キライだった? じゃあピーちゃん……はなんかペットみたいだね、えっと」

「い、いえ。そういう話ではなく。なんですか、それは」

「なにって、アダ名。可愛くない? エリーちゃん」


 どう反応すれば良いのか解らず固まっていると、シオンに両手を握られました。


「これで毎日会えるねっ?」


          ◆     ◆     ◆

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