第6話 思い出 2

          ◆     ◆     ◆



「あなたに会いたかったから」


 毎日のように、わたしは彼女を捕まえて、追い払いました。

 最後は必ず捕まるのに、どうして毎回危険を冒すのかと訊ねたわたしに、彼女が言ったのが最初のひと言でした。

 意味不明でした。そんなにわたしと面会したいのなら、正規の手続きを踏んでくれと、わたしは彼女に告げました。


「馬鹿ね、それじゃ面白くないじゃない」


 彼女の言うことが、当時の私にはこれっぽっちも理解できませんでした。

 ただ、何故かそのとき、アイリスリットがかすかに震えたことを憶えています。

 それはきっと、彼女に対する興味が芽吹いた瞬間だったのでしょう。

 この世に生を受けまだ間もなかったわたしには、複雑な感情を理解する力が不足していました。


「照れてるの?」


 茶化すような彼女の問いかけに、ふと頬を触ってみました。ほんの少しだけ、表面の温度が上がっていることが確認できました。

 にやにやと笑う彼女が憎らしくて、けれど「憎らしい」という気持ちの対処がよく分からず、わたしは黙ったまま彼女を引っ張っていきました。

 


          ◆     ◆     ◆

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