03 森で食料探し、大漁!
家を作るとなると、まずは基礎の工事をしなくちゃね。
基礎の工事っていうのは家の土台を作ること。普通はコンクリートを使うみたいなんだけど、コンクリートはさすがに用意できないので石の土台にする。
そのへんにある岩をノミと金槌で削って整形して、家を建てる場所の地面に埋め込む。
石の頭は平らにしてあるので、その上に木材を置いて床となる土台を組み上げていく。
これは【石場建て】という大昔に行なわれていた建築方法で、本で読んで覚えてたんだよね。
あと木っていうのは、普通は切り倒したあと乾燥させないと木材としては使えない。
でも特区に生えている木は乾きやすいので、すぐに製材して使えるんだ。これはインターネットで見て覚えたこと。
僕は小さい頃からモノづくりが好きで、中学に入ってからは日曜大工にハマった。
それまで遊んでいた友達は小学校高学年くらいからグループを作って特区に入り浸るようになっていて、クラスでの話題も特区のことばかり。
特区に行けない僕は話題についていけず、とうとうひとりぼっちになってしまった。
休日に遊べる友達もいなかったので、父さんの工場の機械を使って家具とかを作ってたんだけど、木材って買うとけっこう高いんだよね。
おこずかいが足りなくて小さなものしか作れなかったんだけど、大きな家具をすっ飛ばして家を作れるなんて……。
モノづくりをしている間は無心になれるから、ひとりぼっちの寂しさも気にならなくなる。
いま僕は、家から持ってきた釘を木材に打ちつけて家の骨組みを作っていた。
頭の中には、打ちつけるカンカンという音だけが響いている。
だんだんその音がセッションのような二重奏になって……って、セッション?
ハッと我に変わってみると、ピーパーとは違う動物がすぐ隣にいた。
それはラッコみたいな生き物で、貝殻をプールの固いところで割るみたいに、石を持って釘を打ちつけていたんだ。
この子も僕のマネをしているようで、時折こちらをチラチラと見ている。
僕の動きが止まったとわかるや、だるまさんがころんだで鬼が振り返った時みたいにピタッと静止していた。
ラッコはただでさえかわいいのに、そんなことをされたら……!
「かっ……かわいすぎるぅぅぅーーーーーーーーーっ!!」
僕はたまらずにラッコを抱きつこうとしたんだけど、いきなり怒鳴られてびっくりした。
「コラーッ!」
「わっ、ごめん!」
「コラーッ!」
ラッコはなおも怒ったような声をあげていたけど、その言葉とは裏腹に僕の胸にぴとっとくっついてきた。
「あれ……? もしかして、それって鳴き声?」
「コラーッ!」
おそるおそる撫でてみると、ラッコはもっと撫でろといわんばかりに手に頭をこすりつけてくる。
腕輪のウインドウには、【コラッコ】と表示されていた。
【コラッコ】 レベル1 振り下ろす道具を使える。また力を合わせて大きなものを運べる。
「キミ、コラッコっていうんだ。キミも僕を手伝ってくれるの?」
「コラーッ!」
コラッコは僕に抱っこされたまま、短い手をいっしょうけんめい上下に動かして釘を打ちつけている。
コラッコのかわいさに目を奪われていて気づかなかったんだけど、よく見たらまわりには他にもコラッコたちがいた。
釘を打つコラッコのほかに、木材を運んでくれているコラッコがいる。
木材を運ぶコラッコは仰向けに寝ていて、お腹に木材を乗せて器用に背中をくねらせて移動していた。
そんなやり方で運んだら普通は遅いはずなのに、コラッコ2匹がかりだと車輪が付いているみたいに速い。
僕はまたしても特区の動物たちのすごい能力を見せつけられ、舌を巻いていた。
ポカーンと見とれているうちに、どんどん家が組み上がっていく。
「す……すごいなぁ……。あ、僕も負けちゃいられない! がんばらないと!」
そう思って袖捲りをしたんだけど、お腹が鳴ってやる気に水を差されてしまう。
「あ……お昼ごはん、食べてなかったんだ……。こんなに本格的な作業をするなんて思わなかったからなぁ……。ああ、お腹が空いたなぁ……」
それは僕だけじゃなくて、みんなもそうみたいだった。
耳を澄ますと、まるで田舎の夜みたいにピーパーやコラッコたちの腹の虫の合奏が聴こえてくる。
僕は手を止めて立ち上がった。
「なにか食べるものがないか探してみよう」
僕はコラッコを抱っこしたまま、緑のアーチをくぐって森の中へと足を踏み入れた。
木々はうっそうと茂っていたけど、広い獣道があるおかげで歩きやすい。
「この土地は、何千年も人が立ち入ったことがないって言ってたけど……。こんな獣道があるってことは、動物はたくさんいるのかな……? 獰猛な動物がいたらどうしよう……」
「コラーッ!」
「わっ、びっくりした! どうしたの?」
胸元のコラッコが伸び上がっていたので頭上を見てみると、青リンゴみたいな果物が鈴なりになっているのが目に入った。
「おおっ、たくさんあるけど食べられるのかな?」
僕はずだ袋の中から高枝切りバサミを取り出す。
これは柄が伸縮式になっていて、30センチから2メートルまで伸ばせるんだ。
ここまでコンパクトで伸縮自在なのは他にはなくて、父さんの工場で作ったオリジナルのもの。
「こんなに便利なものが売れないなんて、おかしいよね……」
僕はぼやきながら枝を切り、青リンゴをまとめて落とす。
リンゴの木は燃料にも使えるから、枝ごと落とせば一石二鳥なんだ。
コラッコがなんでも持ちたがる子供みたいに、にゅっと手を伸ばしてきたので青リンゴを枝からひとつだけ切り離して持たせてあげる。
腕輪のウインドウには【ミドリンゴ】とあった。
「これはミドリンゴっていうのか。リンゴなら食べられそうだけど、これだけじゃ寂しいから、他にもなにか……あいたっ」
足元にツタがあるのに気づかず、引っかかって危うく転びそうになった。
すかさず胸元から「コラーッ!」と檄が飛ぶ。
「ごめんごめん、びっくりさせちゃったね」
しかしコラッコは怒っているわけではないようだった。
今度はツタに向かってコラコラ鳴いている。
「もしかして、このツタも食べものなの……?」
しゃがみこんでツタ触れてみたら、腕輪のウインドウに【ツルポテト】と出た。
「ポテトってことは、野生のジャガイモかな? なら食べられそうだ」
さっそく引っ張ってみたんだけど、ツルは地面に深く埋まっているようだった。
コラッコとふたりがかりで挑んでみても、びくともしない。
僕はたまらず森を出て、作業中のみんなに呼びかけた。
「ごめん、みんな、ちょっと手伝って!」
すると打てば響くような鳴き声とともに、ピーパーとコラッコが僕のまわりに集結する。
「「「「「「「「「「ピィーッ!!」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「コラーッ!!」」」」」」」」」」
「みんな、森の奥にツタが見えるでしょ? あれを引っ張ってほしいんだ!」
号令ひとつでピーパーとコラッコは、新しい遊具を見つけた園児のごとくツタに移動。
僕はその最後尾について、ツタのいちばん端っこを持った。
「よし、じゃあ僕の掛け声に合わせて引っ張って! いくよ! うんとこどっこいしょーーーーっ!」
僕が両手でしっかりとツタを握りしめ、身体をつっかえ棒のように斜めに突っ張って引っ張ると、みんなもをそれを見てマネしてくれた。
「「「「「「「「「「ビィーッ!!」」」」」」」」」」「「「「「「「「「「ゴラーッ!!」」」」」」」」」」
鳴き声にも力がこもる。しかしツタはピーンと張るばかりで、ちっとも抜けない。
「ぐぐぐぐっ! みんながんばって、もっとふんばって! いくよっ!」
僕の顔は踏ん張るあまり、真っ赤な変顔になっているだろう。みんなの顔も真っ赤な変顔になっていた。
思わず吹き出しそうになっちゃったけど必死にこらえる。
「うぐぐぐっ……! う……うんとこ……! うんとこどっこいしょーーーーっ!!」
すっぽ抜けるような感触があって、僕たちは一斉に尻もちをついてしまう。
列の先頭のほうを見ると地面がめくれあがっていて、これでもかと実のついたジャガイモが飛びだしていた。
まるでジャガイモを積んだトラックが横転したみたいな光景に、僕も動物たちも大喜び。
「やった、大漁だーっ!」「ピィーッ!」「コラーッ!」
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