第11話 資料⑧:論文『各地方における「土地神」信仰について』・2
・・・「土地神」を論じる上で外せないのは「土地神」を「媒介するモノ」である。日本各地に残る土地神伝承の事例において直接的に土地神と目される存在が現われるケースは数少ない。ほとんどが何かを媒介とし媒介越しに我々人間に意を伝える(具体的には媒体に神が乗り移る、神の声をマイクのように拾う、あるいは自身の声を媒体をスピーカーとして神に伝える等)、というような意思疎通を図っている。
媒体の最たる例として挙げられるのは「自然」。固有の何か、ではなく自身の周りを取り囲む緑一つ一つに神が宿り我々を見守っている、というのが土地神伝承における最もオーソドックスな土地神の在り方である。
次いで多いのは「石」である。これには宝飾品に用いられる宝石類も含まれる。古来より日本のみならず全世界において「石」、とりわけ色の付いた宝石などは「貴石」「玉」と呼ばれ、装飾のみならず厳格な式典、儀式などで重宝されてきた。「自然」ほど抽象的なモノではなく、「草・木・水」より普遍的過ぎず、半永久的に残り続けるモノ。「石」は媒体として、また具体性を持った祈りの対象としてうってつけの代物であった。
この媒体としての「石」に関する興味深い伝承が東北地方の山間部に存在する。その地域に住む人々は石に宿った神を崇めるのではなく、石に神を降ろして神を育てるのである。主に村に住む女性が「神育て」と呼ばれる三ヶ月間、石を相手に育児を行い寝食を共にする。そして「旅立ちの儀」をもって神を天に返す。天に帰った神は育ててもらった恩を返すため、石を育てた女性の腹に命を齎す。一説ではこの命が神の生まれ変わりであるとか、はたまた神そのものであるとも言われるが真偽は定かではない。この伝承、あるいは風習は1960年代の高度経済成長期まで続いていたらしいが現在は廃れ、伝承を今に伝える神社が一つあるのみだという。
ここまで聞くと確かに奇妙な風習ではあるものの子宝・子孫繁栄に関連したありきたりな話にも聞こえなくはない。しかし、話にはまだ続きがある・・・・・・・
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