第2話 資料①:⚫⚫駅前での街頭取材

「すみませーん、今お時間よろしいですか?」

「え! ええ、大丈夫ですが・・・」

「実は私、⚫⚫社で雑誌記者をしておりまして、今『身近にあった奇妙な話』っていう特集の為に街行く方々に取材をしているんです」

「はぁ・・・」

「どんな些細な事でもいいので、身近で起こった不思議な話、奇妙な話とかありませんか?」

「んー・・・。あの、先月の事なんですけど」

「はいはい、先月ですか」

「ええ、先月の末頃。今日と同じく仕事帰りにスーパーに寄って、午後四時頃に駅前を通ったんです。そしたらあそこ、あの植え込みの周りに変な人たちがいて・・・」

「変な人たち、というのは?」

「あそこに5、6人くらい集団でいて、みんな白い着物?みたいな服を着てました」

「それでそれで?」

「そこにいた人は大体50代から60代くらいのお爺さんお婆さん達で、駅前を歩いている人に声を掛けてました。なんか募金を呼びかけるみたいに。でも、その声がけがすごい変で、とても印象に残ってるんです」

「その、”声がけ”というのは?」

「『神は居ます』『神はあります』って、通りすがりの人たちに声を掛けてるんです。それこそ募金を呼びかけるみたいに、選挙での投票を呼びかけるみたいに、それはもう熱心に」

「それは、なというか違和感を感じますね」

「そうですよね。例えばあの人たちが本当に募金集めをしている団体だとしても、選挙活動をする団体だとしても、ましてやどこかの怪しい宗教団体だとしても、あの呼びかけは変ですよね。『神は居る』『神は在る』と人々に呼びかけて一体何の目的があるんでしょうか。私はずっと気になってるんです」

「その後、その集団を見た事は?」

「ありません。あの日あの時一回限りです」

「そうですか・・・。確かに、それはとても興味を惹かれる奇妙な話ですね。お忙しい中、ご協力ありがとうございます。最期にもしこのお話が採用された場合再度お話を伺いたいのですが、差し支えなければ連絡先の方教えていただいても・・・」

「・・・笑ってたんです」

「はい?」

「あー、思い出しちゃいました。忘れようと思ってたのに」

「・・・何を?」

「その集団ね、声がけしながら笑ってたんです。にこやかな感じじゃなくて、こう、笑いを堪えるみたいな。フフッ、みたいな。まるで人を小馬鹿にするような笑みを浮かべて、『私は知ってるのにお前は知らないのか』って。なんだか苛つきません?」

「はぁ・・・」

「ねえ、記者さん。あの集団のこと、調べてくれませんか? 私、気になって気になって眠れないんです」

「えーっと、雑誌の方に採用されれば調査はしますが・・・」

「お願いしますよ。『神は居る』んですか?『神は在る』んですか?」

「あ、あの、どうされました?どこか具合でも・・・」

「ねえお願いしますよ。ねえ」

「あの、落ち着いてください!手を離して!」

「ねえどうなんですかねえ!」

「ちょっと!警察呼びますよ!」

「助けてください」




※これは先月失踪した編集者のA氏の自宅デスクに保管されていたレコーダーの書き起こしである。

※A氏が取材した女性を探すも見つからず、連絡先は空き家だった。

※⚫⚫駅周辺では同様の目撃情報が数多く寄せられ、同様に失踪事件も多発している。

※『神は居る』『神は在る』と書き起こした部分について、レコーダーの当該箇所を聞くと男女のしゃがれた声が女性の声に混じっているように聞こえる。精査したところ、年齢不明の男女数人の声が女性の声に被さるようにして混じっているという。

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