宗教団体『神在教』に関する取材資料群
吉太郎
第1話 とある編集者との会話
いやー、遅れてすいません! 雑誌の編集会議が長引きまして、こんな時間になってしまいました。こちらから呼びつけておいて、本当に申し訳ない。
何か飲みますか? 勿論奢りますよ?
・・・・アイスコーヒーですか、じゃあ僕も同じモノを頼みますよ。
・・・あ、そういえば。先生が書かれてる短編小説、なかなか好評ですよ。特に最近書かれた、「不理解編」は読者からの反応もかなり良いです。淡々とした文の中に得も言えない恐怖が潜んでる、最近のホラーには見られない新鮮味を感じました。「あれはなに?」に続く単行本化も検討されてるみたいなんで、決まり次第お伝えしますね。
・・・え? 要件は何か?
これは失礼、先生は大学で教鞭も執られているお忙しい身ですもんね。待たせた上に長話までしてはご迷惑ですよね。
では早速なんですが、私が今日先生をお呼びしたのは「取材レポ」の仕事をお願いしたかったからなんです。・・・ええ、実際に現場に赴いて取材していただいて、それを雑誌の記事として纏めていただきたいんです。
・・・はい。本来こういう取材記事と言うのはそういった記事を専門に書かれるライターさんですとか、もしくは私ども編集者が自ら行うある意味専門性の高い仕事ではあるんです。小説家の先生に頼むようなお仕事では本来ありません。それは重々承知しております。それを承知した上で、先生にお願いしたいのです。
と、言うのも、今回の取材は大分特殊と言いますか、これまで何度も取材レポを書かれてきたライターさんや我々でも手に余るような案件でして。先生のように「怪異」を扱う専門の方でないと厳しいと編集長が判断されました。
今回取材していただきたいのは、東北の山間でひっそりと運営されている宗教団体『
・・・・正直、危険な取材であることは間違いありません。こんな依頼をして本当に申し訳ないと思っています。でも、もう後がないんです。
先日、弊社の雑誌部門を統括する上司から『将来性がない雑誌は即廃刊し、編集者も切る』って脅されてるんです。自分で言うのも何ですが、我々が担当するオカルト雑誌は鳴かず飛ばずの三流雑誌です。先生方が寄稿してくださる小説でなんとか繋いでますが、もし将来性が無いと判断されれば即廃刊、我々も一気に職を失います。だから今回の取材記事で一山当てないといけないんです。一山当てて雑誌の売り上げを伸ばさないと、私も私の家族も、仲間達も皆路頭に迷うんです。
だからどうか、どうかお願いします。先生の力をお貸しいただけないでしょうか!
・・・・・・え、本当ですか!
ありがとうございます! ありがとうございます!
誰に頼んでも断られっぱなしで、もう無理なんじゃないかと思ってて・・・。まさか先生に引き受けていただけるとは・・・。
とにかく、取材費用その他諸々はこちらで出しますし、私も微力ながらお手伝いさせていただきますのでよろしくお願いします!
早速、私の方で今集められる資料を探してみます。先生もお時間があれば色々と探ってみてください。ある程度記事の方向性がまとまった上で現地へ取材に行きましょう。
それでは私は編集長に話を通さなければならないんで、この辺で。また準備が整い次第、一週間後くらいにこちらからご連絡させていただきます。
今日は本当に、ありがとうございました!
彼は深々と頭を下げて、喫茶店を出て行った。
彼の背中を見送りつつ、私は氷が半分溶けて薄まったアイスコーヒーを啜りながら、依頼を思い返していた。
『神在教』。神が在る教え。得体の知れない宗教団体。雑誌存続の為の取材記事。
大きな好奇心と小さな不安を胸に抱きつつ、私は彼が牧瀬君の二の舞にならないことをただ祈っていた――――――。
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