第3話 資料②:某オカルト雑誌掲載「ミカの写真」
十数年前、某オカルト雑誌に奇妙な記事が掲載された。
記事の見出しは『「ミカの写真」について』。
以下は記事の内容を要約したものである。
東北某県に走り屋が
かの峠は蛇行するように路がぐねぐねと曲がっていて、急なカーブが連続してやってくる。走り屋にとってはかなり難易度の高い、腕試しの場として全国的に知られていた。
ある日の深夜、走り屋として巷では有名な不良青年Aと知人のBは、各々の愛車でその峠を走っていた。2人は急なカーブをものともせず、遊園地のアトラクションにでも乗っているかのように楽しげに、何度も何度も峠を往復した。
しばらくして、2人は休憩のため峠の中間にある車の退避スペースに身を寄せた。そこには切れかけた街灯の下に古びた自動販売機とその隣に申し訳程度の小さなベンチがあって、彼らはそこで煙草を吸っていた。
A「久々にここ走ったけど、やっぱ楽しいよな」
B「他んとこには無いスリルがあるよな」
A「そうそう。人もいないし静かだし、運転に集中できるって言うか・・・・」
不意にAが自身の右側に視線を向け、突然黙ってしまう。
B「どうした?」
A「いや、これ・・・」
Aは自動販売機の側面を凝視する。Bは自動販売機の対面にいるため何があるか見えない。
B「なんかあんの?」
A「これ、これは、これって、えーっと」
この時点でAの様子はおかしくなっていて、彼は目を大きく見開いて側面にある”何か”に近づいていった。
B「おい、マジで何?」
A「いや、これって、これはさ、なんか、俺らのせいか?」
Aの要領を得ない回答に痺れを切らして、BはAのもとに駆け寄り彼の視線の先を見た。
そこには何かが貼ってある。
街灯の淡い光に照らされ朧気に見えたのは、恐らく写真である。
全体的に黒く、顔までは見えないが誰かが椅子に座っている写真である。
その写真は錆び付いた自販機の側面にガムテープで雑に貼られていた。
B「なんだこれ?」
Bが訝しげにそれを見ている間も、Aは徐々に写真に近づいている。
A「これって、俺のせいか?俺かな?ああ、ごめん、ごめんって」
Aの顔が写真のすぐ目の前まで近づいた辺りで、BはAの肩を強く引いた。
B「おい!どうしたんだよ、お前おかしいぞ!」
Bの呼びかけにAはゆっくりと振り向いた。
A「ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん」
Aはひたすら謝りながら、泣いていた。顔を涙でぐしゃぐしゃにして、顔の穴という穴から汁を垂らして、泣いていた。
Bはその様子に思わず驚いて後ずさりする。そんなBを尻目にAは写真に向き直ると、ぐしゃぐしゃの顔を写真に擦りつけた。
A「ごめん、ごめん、ホントに、ミカ、ごめんごめんごめんなさい」
ズリズリズリ・・・・・
顔と写真、そして錆びた鉄が擦れ合う音が静かな峠に響く。自販機の側面にAの涙と血が混じった液体が滴っている。
ズリズリズリズリズリズリ・・・・・
Bは異様で恐ろしいその状況に耐えきれず、Aをおいて車に乗り込み急いで峠を下った。
Bが逃げようとしている間もAは意に介さず、ひたすら謝りながら顔を擦りつけていたという。
翌日、Bは恐る恐る峠に戻りAを探した。
退避スペースに彼の姿は無く、彼の車だけが残っていた。
そして、自販機の側面を見た。そこには赤黒い液体と何かが貼られていた形跡があるものの、例の写真は無く、ガムテープの切れ端だけが残っていた。
※A、Bそれぞれの身元、行方は分かっていない。
※この記事を書いた記者、ライターも分かっていない。
※この記事の舞台になっている峠については確認が取れている。
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