第15話 女の勘なのです。
「君を初めて見たときに、
ピーンと来たんだよ」
河合さんはそう言いながら握った手にぎゅっと力を込めた。
俺はなんとかして振り払いたい気持ちがムクムクと巻き起こってきたが、
そんな乱暴なことなんてできやしない。
相手は女の子なのだ。
「な、なにが、
ピーンっと来たんだって?」
俺は尋ねた。
すると真横から上目遣いに河合さんが見上げてくる。
その仕草に正直ドキッとなる。
「あはは。
ちょっと今までにいないタイプだな、って思ったんだよ」
「はあ?」
俺は戸惑う。
俺なんて平凡中の平凡だ。
俺みたいな男なんて掃いて捨てるくらい、いるだろうが……。
「見た目は正直言って地味なんだけど、
なにがオーラみたいな力が感じられるんだよ。
……なにかただ者じゃないって感じ」
「そ、そうなのか?」
俺は恵ちゃんを思い出す。
確かに神様に憑かれている男なんてそうそういないだろう。
「でも、
そのことを感じたのは私だけじゃないみたいなんだよね。
それがちょっと悔しいけど、仕方ないって気もするんだ」
「私だけじゃないって?」
「
あと
「はあ?
誰が言ったんだ?」
俺は驚いた。
恵ちゃんとは昨日出会ったばかりなのは言うまでもないが、
そのことはめったに口には出来ない。
なんて言っても恵ちゃんは神様なのだ。
そしてそのことは、
きっと内緒にしていた方が良いに違いない。
「神子さんだよ。
なんでも生まれた日にちまで同じで、
同じ産婦人科で隣同士の保育器だったとか……」
俺はあの野郎と思った。
言うことなすことでたらめばっかりじゃないか。
あの疫病神め。
「そして小学校から中学校まで全部同じクラスって言ってたよ。
そして学校側の手違いで、この高校の寮の部屋も同室なんだってさ。
……加茂君、それを良いことに手を出しちゃダメだからね。これは学級委員としての忠告」
「は、はあ……」
俺はもう言い訳も思いつかなかった。
すべて既成事実としてクラス中に周知されているに違いない。
「わかったよ」
俺はそう言ったときだった。
いきなり河合さんが俺の手を離した。
「もう教室に着くから、
手を握ってたら大変なことになりそうだもんね」
「ああ、そうだな」
俺は開放感に浸った。
なんだかこのまま手を繋いだまま、
教室まで連れて行かれると思い始めていたからだ。
「……でもね、私、あきらめないからね。
そして言って置くけど、私みたいに思ってる女の子はもっといっぱいいると思うよ。
これは女の勘だからね」
そう言って河合さんは先に教室へ入ってしまった。
俺は仕方なくトボトボと後から入っていく。
すると教室の中が騒々しいことに気がついた。
教室の中はまだホームルーム中だったのだが、
若杉先生の姿はなかった。
だから、教室の中は無政府状態だったのだが、
その一角に人が大勢集まっているのが見えたのだ。
「なにしてんだ?」
俺は騒ぎの中心がなんなのか気になった。
そして近寄って行ったのである。
「げっ……」
俺は絶句してしまう。
それもそのはずで中心にいたのは恵ちゃんだったのである。
「さあ、次の人、
並んで並んで」
なにやら机の上に並べているのが見えた。
俺は人垣をかき分けて恵ちゃんの前に出たのであった。
「おい、なにしてんだ?」
なにか良からぬ予感がヒシヒシとしたのだ。
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