第13話 河合花菜さんなのです。



 俺は躊躇した。

 そして目のやり場に困る。




 澤井さんはタオルケットをかけていない。

 つまりスカートから伸びる真っ白な足に視線が行きそうになり、

 それをそらすと今度は直視している目線と合ってしまうのだ。




「どうせならベッドに座らない?」




「は……?」




 俺はどうしたらいいのかわからなくなる。

 正直にそうするのはなんだかヤラシイし、

 かと言って断るのもなんだかなと思ってしまうからだ。




 ……早く有藤先生、帰ってきてくれないかな?




 これが俺の正直な気持ちだった。




「ねえ」




「はいっ?」




「……私、加茂君の自己紹介にしびれちゃったのよ」




「な、なんだって?」




「あのね、

 小学校のときは歩いて十五分かかったけど、

 中学校はたったの二分で通学できるようになったって話。

 ……あれ聞いたとき、ジーンって感じちゃったの」




「はあっ?」




 俺は思わず聞き返してしまった。

 なにがなんだかさっぱりなのだ。

 いったい澤井さんは何を言ってるんだ?




「……それだけじゃないわ。

 高校になったら駅が遠いから、寮から駅まで自転車で行っているって部分も、

 ……素敵だったわ」




「はあっ?」




 俺はなにか嫌な感じがしてきた。

 あきらかに澤井さんはおかしい。

 そしてこのおかしさは既視感があるような気がしてきたのだ。




 そのときだった。




「加茂君、澤井さん、いる?」




 俺は助かったと思った。

 有藤先生が戻ってきてくれたのかと思ったからだ。

 だがどうも声が違うような気がして振り返ると、

 知らない少女がドアの近くに立っていた。




「はい」




 俺は返事をするがその少女には見覚えがない。

 だが短めの髪とパッと花が開いたような健康的な笑顔に見とれてしまう。

 かなりかわいい少女だ。




「……あのー? 

 誰です?」




 俺が問うと少女は笑顔に一層笑みを加えた。




「あはは。知らないのは仕方ないよね。

 私、河合花菜かわいかな。一年二組の学級委員なの」




「学級委員?」




「うん。

 君たちが保健室へ行っちゃった後に、

 若杉先生から学級委員を早く決めたいって話になって、

 私、そういうの割と好きだし、さっさと決めちゃった方がいいから立候補したんだ」




「はあ」




 俺は一応納得した。

 本人がそう言っているのだからそうなのだろうし、

 それにこの少女の語り口からして、

 そういう行動力がありそうな雰囲気がプンプンにじみ出ているからだ。




「で、

 君たちはなにをここでしてたの?」




 つかつかと河合さんは入ってきた。




「あ、いや、

 ……別になんでもない。

 ……澤井さんを寝かしつけたのは保険医の先生だし。

 その先生は若杉先生に事情を話してくれるって言ってたけど」




「あ、有藤先生のことね? 

 有藤先生は若杉先生と廊下で思い出話にふけってるよ。

 で、全然帰って来ない君を探しに私が来たって訳」




「あ、だから、

 有藤先生が戻ってくるまで俺が澤井さんを見ていろって言われた訳で、

 ……俺、全然やましいことないし」



やましいことはしていないのは確かだ。

だが、このままでは澤井さんの生足の魅力で、

やましいことをしてしまうかもしれないのも、確かだ。



そんなときに、この学級委員の河合花菜さんが来たのであった。



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