第12話 保健室で二人きりなのです。



「失礼します」




 俺はそう断って保健室のドアを開けた。

 すると中には白衣姿の女性がいた。




 保険医の有藤慶子ありとうけいこと名乗ってくれた。

 若杉先生よりもちょっと年上に見えるきれいな女性だった。




 そして俺が事情を話すと、

 有藤先生は澤井さわいさんをベッドに寝かしつけてくれた。




「貧血だと思うけど。

 ちょっと安静が必要ね」




 有藤先生が俺に椅子を勧めながらそう言った。

 俺は澤井さんを預けたらすぐに教室へ帰るつもりだったのだが、

 せっかくだからと椅子に座る。




「貧血ですか?」




「ええ、

 ……年頃の女の子に多いのよ。そう驚くことないわ」




「はあ」




 俺の家族には年頃の女の子などいないので、

 そう言われて俺は少し驚いた。

 椅子から倒れたのだから、もっと重大な病気かと思っていたからだ。




「なに、

 一時間も安静してたら良くなるわよ」




 有藤先生はそう言って立ち上がった。




「私はちょっと職員室に用があるから、

 よろしくね」




「はあ?」




 俺は驚嘆の声を出してしまった。

 正直、教室に戻らないといけないと思っていたし、

 俺が居残っても役には立たないと思ったからだ。




「加茂君と言ったわね。

 君は、こんな状態の彼女をひとりきりにするつもり?」




「そ、そういうわけじゃないですけど、

 教室へ帰らないと何言われるかわからないし」




「それは大丈夫よ。

 職員室の帰りに一年二組に顔を出して、若杉わかすぎ先生に事情を言っておくから」




「はあ」




 聞けばこの有籐先生は、若杉先生の大学の先輩だと言うのだ。

 なので俺は仕方なく保健室へ残ることにしたのだった。




 そして有藤先生は、

 なにかの書類を抱えて保健室から出て行く。




「……加茂かも君、いる?」




 有藤先生が出て行って二、三分経った頃だった。

 カーテンが引かれ姿が見えないベッドのところから澤井さんの声がしたのだ。




「いますけど」




 俺は答えた。

 するとカーテンがサッと引かれた。

 そしてベッドから半身を起こした澤井遙香はるかさんが見えた。




 心なしかさっきよりも顔色が良くなった気がする。

 やはり貧血が原因で、ベッドで休んだことで回復したのだろうか。




「ねえ、こっちに来て」




「は?」




 俺は瞬間なにを言われたのかわからなかった。

 だが澤井さんが手招きしたので意味がわかった。




 俺は椅子ごとベッドに近づいた。

 椅子にはキャスターが付いているので足を使って移動させたのだ。




「ふう。……少し良くなったわ。

 ありがとう。保健室まで運んでくれて」




「それはいいよ。

 それより顔色、さっきよりも良くなったね」




「ええ。

 私、貧血持ちなのよ。だからときどき休養が必要なの」




「そうなんだ。

 ……保険医の有藤先生はもう少しで戻ると思うから、そのまま休むといいと思うよ」




 俺は有藤先生の件を伝えた。

 すると澤井さんは少し思案顔になる。




「なら、もう少し二人きりなのね」




 俺はドキリとする。

 意識していなかったと言えば嘘になるが、

 改めて言われる確かにここには俺と澤井さんしかいない。




「ねえ、もっと近くに来て」




「は?」




 俺は額から汗がにじむのがわかった。

 ただでさえ美少女の澤井さんと二人きりなのだ。



 ……おいおい。

 この澤井さんはなにを考えているのだろうか?



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