第11話 澤井遙香さんが倒れてしまったのです。
「
順番が来たので俺は立ち上がり、そう名前を告げた。
そして出身地の話、中学での話などを手際よくまとめた。
「……高校では三年間を、
無事平穏に過ごせればいいと思っています」
だいたい自己紹介なんて大した意味はない。
一度に全員がするので個人個人の印象なんて残らないし、
特に目立とうなんて思ってもいなかったから、
俺は差し障りのない話だけをして、さっさと終わらせるつもりだったのだ。
ところがそうではなかった。
「大丈夫です。
大吉さんは私が幸せにしますからっ!」
絶妙に合いの手で俺の話に乱入してきたやつがいた。
もちろん
目をきらきらさせて大声で宣言したのである。
途端にクラスの連中から、
冷やかしの声が飛んで来た。
「お前ら、
どういう関係だよっ!」
興味本位全開で隣の席のやつなどは、
俺の身体を突いてくる。
「……知り合いだよっ。
それ以上でもそれ以下でもないっ」
俺は断言した。
だがそんな言葉なんぞ誰も聞いていない。
ヒューヒューと行った口笛で更にからかいはエスカレートする。
「おい、
お前のせいだぞっ!」
俺は恥ずかしさで真っ赤になって恵ちゃんを指さした。
ところが我が神様はなぜ俺がからかわれているのかさっぱりわからないようで、
辺りを見回してキョトンとしている始末だ。
「あれ? あれ?
……私、なにか変なこと言いましたか?」
「言った。
それも最大限に誤解されるようなセリフを吐いたんだっ」
俺がそう指摘すると、
恵ちゃんは急に困ったような顔になる。
「……そんな、
私はただ、大吉さんが幸せになってくれれば良いだけなのに」
「それが原因だ。
どう責任を取るつもりなんだ?」
俺はちょっと興奮していたと思う。
だからつい恵ちゃんに詰問調になってしまったのだ。
「静かに、静かにして」
気がつくと若杉先生が教壇から叫んでいた。
だがいったん興奮の領域に入ってしまったクラスの空気は、そう簡単には収まらない。
流石にまだ経験不足の先生には、こんな混乱を押さえるのは簡単ではないようだった。
そのときだった。
バタンと音がした。見ると俺の隣の席に誰もいない。
……いや、いないんじゃなくて、
たった今まで席についていたのに急に崩れる形で床に座り込んでしまったのだ。
それは
「あ、おい、
大丈夫か?」
俺はまっさきに飛び出した。
これは別に彼女に接近したい下心があったとかじゃなくて、
ただ単に立っている俺がいちばん早かっただけだ。
「……す、すみません。
気分が悪いみたいです」
澤井さんはふらふらと立ち上がろうとするが、
足元がおぼつかなくて自然な形で俺に寄りかかる形になっていた。
「……先生、
俺、保健室に連れて行きます」
ふと思うと、なぜその瞬間、
俺がそう発言したのかわからなかった。
確かに澤井さんはすこぶる美少女だ。
だけどこのときの俺は正直言って、まったく下心はなかった。
ただ純粋に身を案じていたのだった。
「そうね。
……じゃあ加茂くん、お願いするわ」
若杉先生はそう俺に伝えた。
クラス中から俺は視線を感じていた。
だが、それはやっかみやひがみと言った悪意なものじゃなくて、
突然倒れた澤井さんを心配する雰囲気だったのだ。
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