第10話 若杉先生なのです。
「どうして、
ここにいるんだよっ?」
俺は仰天たまげた声で、
恵ちゃんに尋ねていた。
「それは私が神様だからです。
ちゃんといろんな意味の都合はつけてあるので、
問題はないですよっ」
「そんなことはわかってる!
例の
それはわかる。
だがな、俺が訊きたいのは、そんなことじゃない!」
俺は叫び続けたので、声がぜいぜいしていた。
そして気がつくと俺のクラス、つまり一年二組だけじゃなくて、
一組や三組の両隣の連中まで廊下に顔を出して、こっちを見ていやがるのがわかった。
「……ま、
ちょっと冷静になろうか」
「冷静じゃないのは、
大吉さんだけじゃないですかっ?」
「ああ、わかったっ。
確かに俺だけが混乱しているよっ」
俺は恵ちゃんを廊下の奥、
つまり階段の方へと引っ張った。
ここならとりあえず誰の目にも触れないからだ。
そして恵ちゃんの肩を叩き真っ直ぐに立たせた。
「あのな、俺が訊きたいのは、
なぜ学校にまで、お前が来る必要があったかなんだ。
確かに恵ちゃんは俺を幸せにしてくれると約束をしてくれた。
それはわかる。
だがな、学校まで押しかける必要があったのか?」
「ああ、
そう言う意味の質問だったんですね?」
ようやく恵ちゃんは、
納得してくれたようだった。
「私は同じクラスに入ったのは、もちろん大吉さんのためですよっ。
大吉さんが一刻も早く幸せになるためには、なるべく側にいた方がいいですからね。
なんたってチャンスが増えます」
「なんのチャンスだ?」
「……それは、
まだ内緒です」
「なんのことかわからんが……。
ま、もう過ぎた話だ。クラスに戻ろう」
俺は納得はいかなかったが、
いつまでもここで立ち話をしている訳にもいかないので、
教室へと戻ることにした。
そして担任がやって来た。
担任の先生は
俺たちと年も近いせいかお姉さんと言った感じだ。
そして、美人だった。
長い髪を後ろでまとめていて、スーツ姿がまぶしい。
そして俺は正直言うとちょっと見とれてしまった。
こんなお姉さんがいたらいいな、なんて考えていたのだ。
「若杉桜です。
みなさん、これから宜しくお願いします」
まるで生徒のような挨拶だった。
クラス中が拍手に包まれた。みんな先生を受け入れた様子だった。
「では、
まず入学初日に必ず行う儀式があります。なにかわかりますか?」
若杉先生が俺たちに質問した。
みな首を傾げたが俺には答えがわかっていた。
「そうです。
自己紹介です」
すると、一同、おおっ、っと声が上がる。
そして緊張した雰囲気が広まった。
「まずは私から始めます。
そうした方がみんな緊張しなくなりますよね」
そう言って若杉先生は自己紹介を始めた。
「私は生まれも育ちも東京です。
そして小学校から大学まで、ずっと東京でした。
そしてすべて女子校出身なので彼氏はいません。ですから絶賛募集中です」
半分はジョークだろうが、
男子生徒たちは大いに盛り上がった。
そして先生は小さいときから犬好きで、
今も一人暮らしの部屋にポメラニアンがいることや、
本当は英語の教師になりたかったのだが、
英語がどうにも克服できず、国語の教師になった話などを紹介したのであった。
「では出席番号一番の人から順に自己紹介してください。
時間はだいたい二、三分くらいです」
そして
ぼそぼそと平凡な自己紹介をした。
そして次、次と進んでいくのであった。
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