第9話 教室にいたのです。
学校に着くと、
すでに新入生たちが集まり始めていた。
参列する保護者の数は少ない。
一部の近所のやつだけが、自宅から通っているので親同伴で来ている様子だった。
俺は受付を済ませ体育館に入った。
場所はすでに事前の体験入学で知っているので困ることはない。
俺は一年二組と決まったので、二組の列の椅子に座る。
「……流石に知ってる顔はないな」
俺は周りを見回したが、
見知った顔は男女ともに誰もいない。
俺は隣の県からの入学なので、同学年には同じ中学出身は誰もいないはずだ。
そして入学式が始まった。
式は型どおりで校長の挨拶から始まり、
先輩の代表も壇上に登り新入生たちに挨拶をする。
そんなことが二時間近くもかかった。
俺は最初は真面目に聞いていたのだが、
だんだん眠気が襲ってきて、
その度に自分を奮い立たせて、とにかく目だけは開け続けているように努力した。
「では、各クラスに移動します」
アナウンスがそう告げて入学式が終了した。
そして俺はぞろぞろと歩く新入生の群に混じって渡り廊下を通り、
校舎へと向かったのであった。
「お……」
俺はそのときひとりの少女に目が行った。
目の前を偶然に通過しただけなのだが、その美貌に一瞬で心を奪われたのだった。
背は高くすらりとした体つきで、つやつやの黒髪を背の中程まで伸ばしている。
そして顔つきはまるで作り物のように整っていた。
目鼻立ちがしっかりしていて清楚な印象を受けた。
「どのクラスなんだろう?」
俺も年頃の男だ。
やはり気になって後を付けるように歩くと、
ラッキーなことに二組の教室へと入っていくのが見えたのだ。
そして黒板に事前に書かれていた席順を見ると、
驚いたことに俺の隣の席に座ったのだ。
「……
俺は黒板を見て彼女の名前を憶えた。
これはチャンスを見てお近づきになりたいと密かに思ったのだ。
そのときだった。
「……げげっ」
俺はいきなり目に飛び込んできた姿に、
思わず立ち上がってしまった。
周りの目をはばからずの行動だったので、クラス中が俺に視線を送ってくるのがわかった。
だがマジで真剣に驚いたのだ。
「め、
……な、なんでお前がここにいるんだっ!」
俺は叫んでいた。
そうなのだ。
俺の斜め前方の席に腰掛けているのが、
制服姿の
「イヤですよっ。
同じクラスだからに決まってるじゃないですか? これからよろしくっ」
憎らしいことにやつは全然驚いていない。
おそらくたぶん神様なのだから、
「ちょ、ちょっと話がある」
「な、なんなんですかっ?」
俺は注目されているのにも構わずに、恵ちゃんの手を取った。
そして廊下へと引っ張っていったのである。
「入学早々、大胆なヤツだなあ」
クラスの一部から感嘆とも失笑とも取れる声が聞こえたが、
俺は構わずに恵ちゃんの手を引っ張ったのだった。
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