第6話 氏子なのです。

 


 俺が驚いて尋ねると、

 恵ちゃんは大きく頷いた。



「私は神様ですからねっ。

 氏子うじこが拝んだお願いをかなえる義務があるんです」



「俺はいつから氏子になったんだ?」



「私を拝んだ瞬間からですっ。

 私にはビビビッって来ちゃったんです」



「なにが来たんだ?」



「母性愛ってあるじゃないですかっ。

 私は大吉さんを一目見て、

 これは神様としてなんとかしてあげたいって思っちゃったんですよっ」



「そんなちっちゃい身体の少女に、

 母性愛を感じられてもな」



 俺は正直に思いを言った。

 だが恵ちゃんは俺の皮肉なぞなんでもないようだった。



「この姿はある意味、

 大吉だいきちさんの願望でもあるんです」



「俺の願望? なぜ?」



「ははあん。

 さては覚えてないんですね?」



「悪い。

 まったく身に覚えがない」



 すると恵ちゃんは得意気な顔になる。



「大吉さんは、

 こんな小さい祠だから、神様も小さいんだろうなって心に思っていたんです。

 だから小さい少女の姿になったんです」



「はあ……。

 ま、確かにそんな風に考えたような気がするな。

 でも少女の姿はなぜなんだ?」



「当たり前のことを訊かないでくださいっ。

 子宝の神様が女じゃなくてどうするんですか?」



「言われてみると確かにそうだな。

 ……じゃ、あれか? 

 俺があのとき、ごつい神様をイメージしてたらそういう姿で現れたのか?」



「ふふふ。

 ……なんならお見せしましょうか?」



 そう答えた恵ちゃんは左右の手でパッパと空を切る。

 まるで忍者が印を切るような仕草だ。



「……嘘だろ」



 俺は絶句した。

 なぜならば恵ちゃんの身体がむくむくと大きくなって、

 天井に頭がつくくらいになったからだ。



「巨大化してみましたっ。

 ちなみに身の丈二メートル五十センチです。バスケの選手になれるくらいです」



 頭上から、

 巨体に似合わない幼い声が聞こえてくる。



「……わかった。

 悪かった。元の大きさに戻ってくれっ」



 俺は哀願した。

 興味本位で変なことを口走ったばかりに、

 この巨大女と同室しなきゃならなくなるなんて考えてもいなかったからだ。



「わかればいいんですっ。

 これで私が神様だってことも信じてくれましたよね?」



「ああ、信じた。

 化け物と神様が同類ってことも」



「なんだかトゲがある言い方ですねっ」



 そう言いながらも恵ちゃんは元のサイズに戻ってくれた。

 俺は安堵のため息をついた。



「しかし、

 でも、うーん……」



 俺はあの小さなボロい祠に願ったのは無事平穏だ。

 新しい街で新しい暮らしを始めるのだから、それ以上は望まないし、

 それ以外に拝む内容なんて考えてなかったからな。



 だが現実はどうだ? 

 訳がわからないまま氏子にされて変な神様に部屋まで押しかけられている。



「俺は幸せなのか? それとも不幸なのか……?」



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