第5話 少子化なのです。



「……こ、子宝の神様?」



「はいっ」



めぐみちゃんは元気よく返事してくれた。

だが、いったい、なぜ……?



「お、俺は、

 子宝の神様を拝んじゃったの?」



「あ、でも平気ですよ。

 男の人が拝んでくれたからって言っても、

 男の人が赤ちゃんを産めるはずもないですから」



「そりゃそうだろう」



 俺は即答した。

 そんな話は聞いたことはないし、もし俺が妊娠するなんてことは想像もしたくない。



「でも昔は男の人が拝みに来てくれたことも多かったんですよ。

 とにかく昔は子供がいるのが当たり前で、子だくさんが当たり前でしたから」



 昔っていったいいつの話だろう? 

 戦争のときくらいか? それとも戦後すぐか?



「……で、その子宝の神様の恵ちゃんは、

 いったい俺になんの用があるのかな?」



「あんまりな言い方ですね。

 拝んだのは大吉さんの方ですよ。私からお願いした訳じゃないんですから」



「た、確かにそうだけど、

 子宝の神様だと知ってたら拝まなかったから」



「ひどいですね。

 そういう風に神様差別するのは良くないと思います」



 なんだか恵ちゃんは憤慨していている。

 俺がなにか気に入らないことでも言ったんだろうか?



「……最近ホントに減ったんですよ。

 私の御利益なんて、ちっともありがたくなくなっちゃったみたいです」



「そんなことないだろう? 

 子供が欲しい人は今でもたくさんいるんじゃないか?」



 俺は適当なことを言ってみた。

 俺にはまだピンと来ないが、結婚して家庭を持ったら、

 子供が欲しくなるのはふつうな気がしたからだ。



「甘いっ! 

 大吉さんはわかってませんっ。少子高齢化社会って知ってるんですか?」



 いきなり恵ちゃんは立ち上がった。

 そして俺の身体を突き刺さんばかりに人差し指を向けた。



「若い人が結婚しないんです。

 そして結婚する人も晩婚が多いんですよ。

 だから子供が生まれないんです。つまり子供がいらない世の中なんですっ」



「そ、そうなのか?」



「そうですっ! 

 ワーキングプアって知ってます? 

 若い人が定職に就きたくてもつけなくて、

 給料の安いブラックな仕事で働くしか仕方ないんです。だから結婚ができないんですっ!」



「は、はあ……」



 俺はまるで社会の授業を受けているみたいだった。



 恵ちゃんはよっぽど鬱憤が溜まっているようで、

 更に若年層の非正規雇用の問題や、労働人口の減少に伴う税収の悪化が、

 少子化の負のスパイラルを形成していることまで延々と熱く語り続けたのであった。



「……要するに、

 お前の出番がなくなった世の中が不満なんだろ?」



 俺は話の要点をまとめて言ってみた。



「お前? 

 ……今、神様に向かってお前って言いましたねっ?」



「……突っ込むところはそこじゃないだろ?」



 俺はそう言いながらも話をまとめようとした。

 このままじゃ夜中になってしまうし、

 いつ隣の部屋から苦情が来るかわかったもんじゃないからだ。



「で、お前はいつ帰るんだ?」



 俺は肝心なことを口にした。

 時計を見るとそろそろ遅い時間だ。

 俺は夕食がまだだったし、明日は入学式なので早く帰ってもらいたかったのだ。



 すると恵ちゃんは目をキョトンとさせた。



「私ですか? 

 私は帰りませんよ」

 


「はいっ?」


 なんかすごい発言を、

 サラッと言われた気がしたのだった。



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