第4話 神の癖なのです。
「どうしてこれを、君が持ってるの?」
俺の声は不審がっていたと思う。
だって考えても欲しい。
俺が最初になくしたのは財布、そしてスマホ、
更には歩きながら眼鏡を無くしてしまったのだが、
それらのすべてをこの少女が持っていたからだ。
「べ、別に悪気はなかったんです。
ただちょっと魔が差して……」
「盗ったの?」
「ち、違いますっ」
少女はそう言うと、
プウとむくれた。
「私は神様です。
人の物を盗るなんてしませんっ」
「じゃ、じゃあ、
なんて君が持ってるの?」
俺は立ち話もなんだからと座布団を勧めた。
すると少女は俺の財布などを返しながら座布団に座った。
「だから訳があるんです」
「訳?」
訳ってなんだ?
仮にも本人が神様と言っているのだから、
人間とは違う目的でもあったんだろうか?
「……さ、最近、
誰も彼も全然拝んでくれないってことは、話しましたよね?」
「うん。
俺が久しぶりの参拝者なんだってことでしょ?」
「そうなんです。
……あんまり誰も拝んでくれないと、私たち神様は、
……ちょ、ちょっと貧乏神の癖がついちゃうんです」
「は? ……貧乏神?
ってことは君は貧乏神なの?」
「違いますっ。
ただ貧乏神の癖がついちゃうと、
身近な人間のお金とか持ち物とかが、
自然に貢ぎ物に見えちゃって、手が伸びちゃうんです」
「つまりは、
お賽銭代わりってこと?」
「そうなんです。
……でも返しましたら、
私が貧乏神じゃないってことは理解してくれましたよね?」
少女はまん丸な目で俺を見つめていた。
俺は正直困っていた。
正直言うと理解なんかまったくしていないのだが、
半泣きな目はすでに涙をたたえていたからだ。
「……えーと、わかったよ」
「ホントですか?」
すると少女は大喜びで立ち上がると、
その場でぴょんぴょん跳ねた。……ここ、床が薄いんだが。
「ま、ここで知り合ったのも何かの縁だから、
お茶でも飲む? 麦茶しかないけど」
「あ、いただきます。
喉渇いてたので嬉しいです」
そう言うので俺は二人分のお茶を用意した。
「ところで君の名前はなんて言うの?
あ、神様だから名前はないのかな?」
「いわゆる人間的な名前ですか?
ありますよ。
「いやに人間的な名前だね」
「ええ、さっき考えたんです。
得意気にそう言った。
ホントに神様なんだろうか?
俺は例の
「じゃあ、恵ちゃん。
君はいったいなんの神様なの? 学業の神様だったりしたら嬉しいんだけど」
俺はちょっと本音を言ってみた。これから高校生活が始まるのだ。
だったら勉強の神様なんてのは縁起が良いに違いない。
きっと学業の神様だったら楽してテストの高得点が取れるだろう。
「私ですか?
私は子宝の神様です」
「……は、はいっ?」
俺は麦茶を持ったまま静止した。
歯にガラスコップが当たり、かちんと音がした。
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