第2話 神罰なのです。

「あーん? 誰だっ?」



 金髪が辺りを見回した。

 すると俺を掴んでいた指の力が少し緩んだので、

 俺も辺りを見回すことができた。



「……?」



 俺と金髪のすぐ横に、少女が立っていた。

 あまりにも小柄なので、首を下に向けなければその姿が見えないほどだ。

 年の頃、十二、三才くらいだろうか?



 髪型は肩で切り揃えた漆黒の黒髪で、目元で真一文字にカットした前髪。

 通称、姫カットにしている。

 まあ、簡単に言えばおかっぱ髪だ。



 服装は無垢な浴衣のような衣装で帯は緋色。

 足元は草履履きであった。



「なんだ嬢ちゃん? オラッ!」



 金髪が噛みつかんばかりに威嚇した。

 俺には直接被害のない脅しだが、

 瞬間びくりと萎縮してしまう。それくらい怖い声だった。



 ところがその少女。

 まったく平気なようで、

 逆にずいと近づいてきて金髪の袖口を掴んだのだ。



「もう一度言いますよっ! 

 その人に危害を加えたら罰が当たりますっ!」



「はあ?」



 金髪の興味は俺じゃなくて、

 少女に移ったようだった。



 一瞬助かったと思ったが、

 俺のためにこの少女が危害を加えられたら男として情けない。

 ……が、俺にはどうしようもない。



「嬢ちゃん、

 痛い目に遭いたいのかっ?」



 腰に両手を沿えて、

 真上から見下ろすように金髪が怒鳴りつける。



 それをヤクザさんは、

 楽しげにニヤニヤ笑いで見ていた。

 もちろん止める気なんかさらさらないようだ。



「や、止めてください。

 俺が謝りますから……」



 気がつけば俺は飛び出して、

 金髪と少女の間に割って入っていた。



「いい度胸だ。おらっ!」




 いきなり俺の頬にがつんと来た。

 瞬間、目の奥でピカピカと星が瞬いた気がした。



 俺はすんげい力でぶん殴られて、

 地面に尻餅をついていた。……すげえ痛てえ。



「ああーっ! 

 やっちゃいましたねっ!」



 少女が俺に駆け寄った。

 そしてきつい目になって金髪を見上げる。



「仕方ありません。神罰を与えますっ!」



 なんか説得力に欠ける気がするのは俺だけだろうか? 

 どう見てもこんなチビな少女が、

 チンピラ二人相手に大立ち回りをできるとは思えない。



 そのときだった。



「あんたたちっ! なにやってんのっ!」



 いきなり金切り声が響いた。

 見るとケバケバしい化粧をした女性が、目をつり上げて立っていた。



「あ、姐さんっ……!!」



 気がつけば、

 柄シャツのヤクザさんも金髪も直立不動の姿だった。



「いつもウチの人が言ってるでしょっ! 

 堅気さんに迷惑かけるなってっ!」



「す、すんませんっ!」



 二人は女性の声に縮まった。

 そして地面に頭をつけているではないか。

 ……つまりは土下座だ。



「どうか、組長には何卒、何卒……」



「ふんっ」



 女性はつかつかとハイヒールを鳴らして二人の前に来た。

 そして二人の耳をきつくつねりながら立ち上がらせる。

 男たちは、まるで母親に叱られた幼い子供のように見える。



「さ、行くわよ」



 そして耳を引っ張ったまま女性は歩き出した。



「あ、そうそう。

 ……坊や、悪かったわね」



 女性が急に思いついたかのように振り返る。



「あ、別に全然平気です」



 俺は正直、頬が痛かったが一刻も早くヤクザさんたちを遠ざけて欲しかったので強がった。



「そう。……今度会ったときはお詫びをするわ」



 そう言い残すと、

 停めてあったドイツ製の高級車に二人を押し込んで去って行った。



「……あのー、大丈夫だった?」



 俺は傍らに立つ小柄な少女に声をかけたのであった。


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