いらぬ神に祟りなし ~少子化問題解決します~
鬼居かます
第1話 ケチのつき始めです。
どうにもおかしい。
俺は夕暮れの街を自分の寮に向かって歩いているのだが、
まだこの街は越してきたばかりなので、風景も見覚えがなく不安に拍車がかかっていた。
「そもそも、財布を落としたのがケチのつき始めなんだよな……」
俺はそうつぶやく。
そうなのだ。
さっき自販機でお茶を買ったあと気がついたらポケットから財布がなくなっていた。
中身は大した金額でもないし大事なものは入れていないので、
それほど困りはしなかったがそれでも電車に乗れないのは確かであって、
仕方なく俺は二駅も歩いたのだ。
「スマホもどこかで落としたんだよな」
いつも肌身離さず持ち歩いているはずのスマホが見当たらない。
これもポケットに入れっぱなしでなくなればすぐに気がつくはずなのに、
いつの間にかなくなっていたのだ。
「うおっ! 眼鏡が……」
俺は視界がいつもに比べて悪いことに気がついた。
そしてなぜだろうと顔に手をやると眼鏡がないではないか。
「眼鏡なんて落とすか? ふつう……」
俺はもう呆然としていた。
あり得ない。
こんなアンラッキーが一日に数度も起こるなんて、まったく馬鹿げている。
もう何かに化かされたとしか思えない。
俺はそこまで思ったとき、ふと昼間のことを思い出した。
――お参りに行ったんだよな。
新しい街に越してきた。
俺は特に信心深い訳じゃないんだが、
ばあちゃんが小さい頃に俺にしつけたことを思い出して、
ちょっとした出来心で小さな祠を拝んだことを思い出したのだ。
ばあちゃんは俺をよく連れ出した。
そして違う街に到着すると必ず近くの神社にお参りをしたのだ。
「違う土地には違う鎮守の氏神様がいるんだよ。
だからそこでお参りするといいことがあるんだよ」
そう言ってばあちゃんは俺といっしょに拝んだものだ。
そのことが頭のどこかに残っていたようで、
俺は生まれて初めて一人暮らしをすることになったことから、
この街の氏神を拝んでおこうと思ったのだ。
そしてデパートとデパートの間の小径を歩いていたら、
偶然見つけた祠を拝んだと言う訳だ。
その祠はとても小さくてとてもボロかった。
すでに祀って保存している人たちもいないようで、
石造りの小さな祠は半分崩れかかっていて、
不届き者の誰かが捨てた粗大ゴミにまみれて放置されているように見えたのだ。
そこで俺は財布から五円玉を出して賽銭として柏手を打ったと言う訳だ。
そのときふと寒気がしたのを思い出す。
なぜか背筋にぞぞぞという悪寒が走ったのだ。
「……考えてみれば、そこからがケチのつき始めかも」
俺は嫌な予感がした。
あの荒れ果てた状態からして、
きっと御利益なぞまったくない神様が祭られていたのかもしれないような気がしてきたのだ。
そのときだった。
俺はすれ違いに歩いていた二人連れの片方の男性と肩がぶつかってしまった。
ちょっと強くぶつかったので俺は思わずよろめいた。
「あ、すみません」
眼鏡がないこともあるんだが、それ以上のぼんやりしていたのが原因だ。
「オラっ、どこ見てんだっ!」
ところが返ってきた返事は激しい怒鳴り声だった。
「げっ……!」
俺は瞬間に萎縮してしまう。
派手な柄シャツにパンチパーマ。
どこから見てもヤクザさんたちにしか思えなかったからだ。
「兄貴、どうしたんです?」
もう一人の金髪チンピラ風の男が兄貴と呼んだヤクザさんに話しかける。
「このガキが俺を突き飛ばしやがったんだ」
「兄貴をですかっ? おい、ガキっ」
金髪が俺に向かって吠えた。
……どうする?
俺は辺りを見回すが助けてくれそうな人物はまったく見当たらない。
「す、すみませんでした。わざとじゃないんです」
俺は必死で謝った。
だがそれはまったく通じないようで、俺は金髪に胸ぐらを捕まれてしまった。
……なんてついてないんだ。
俺は半泣きになってそう思った。
そのときだった。
「ダメです。
その人に危害を加えたら罰が当たりますよっ」
どこからか声が聞こえた。
まだ幼さの残る少女の声のようだった。
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