24-2 宴の後(下)

〔松〕「あれ、皆さん八景島はっけいじまには行かなかったのですか」

 グリークラブの発表を聞き終えた松尾が、プロレス同好会三名の有終の美を見届けた仏像達の元へやって来た。

〔仏〕「絶対行かねえ。誰が行くもんか」

〔シ〕「行ってやれよ。このままじゃ、井原いのはら妹(れん)としこしこさん(仏像父)の痛々しいダブルデートが続くだろ」

〔仏〕「知るかよ。俺はファンには距離きょりを置くタイプなの。一人だけ特別扱いは不公平だろ」

 仏像はぷいとそっぽを向く。


〔餌〕「でも井原いのはら姉妹は『かしわ台コケッコー』の主力だよ。十月末から十一月頭で『かしわ台コケッコー』と合同練習をするって服部君が言っていたし、早めに仲直りをした方が良いんじゃないの」

〔仏〕「まじかよ。矮星わいせいからは何にも聞いてないぞ。えさ、俺の代わりに出て」

〔餌〕「シンガポールに交換留学中だから無理」

 そうだったとがっくりこうべを垂れると、仏像はカバンを肩に掛けなおした。


〔松〕「だったら僕だけが八景島はっけいじま行きですね。ではお先に失礼いたします」

〔仏〕「えっ、うちの父親と合流すんの」

〔松父〕「いやいや、僕がちょっと八景島はっけいじまの水族館に行ってみたくてね。みんなも良ければと思ったのですが」

 温和そうな松尾の父が、にこやかに目を細める。

〔松母〕「みんなそれぞれの都合があるの。無理言っちゃダメよ。みなさん、どうぞ息子をよろしくお願いいたします」

 松尾の父母は仏像たちに頭を下げると、松尾を伴って校門をまたいだ。




 そして宴の後。

 来場客もはけ、秋の夕日が撤収作業に勤しむ男子高生を照らす中、シャモは校舎をバックに自撮りをしていた。

〔シ〕「まじで、まじで文化祭も終わっちまったなあ……。三学期は自由登校だから、実質あと二か月しか学校にいられないじゃん」

〔餌〕「そんなに学校に愛着があるなら、留年したらどうですか。高三の夏までには普通の彼女と水着デートでしたっけ。このままだと公約違反こうやくいはんですよ」

〔シ〕「地球温暖化で十月までは夏のうちって言っただろ。まだ十月は終わってない。俺はあきらめない。そろそろ推薦入試なの。留年なんざ縁起でもねえ」


〔仏〕「広島のヒバゴンだかのお告げを信じて『鶴巻中亭つるまきあたりてい』に行かなけりゃ、今頃は大富豪令嬢の婿殿むこどのコースで人生楽勝だったんだろ。それなら受験も留年も関係なかったのに。そもそもそんなバカな話はねえと思いたいが……」

〔シ〕「比婆ひばさんな。それに、『鶴巻中亭』に行かないで藤巻しほりちゃんとの関係が続いていたとしても、藤巻家で会っている時の記憶がすっ飛んでいるんだから未来なんてどのみち見えねえよ」

〔餌〕「英語と簿記と中国語初級講座の記憶しか残っていないアレですね」

 餌が片頬をゆがめて笑う。


〔シ〕「餌こそ同年代の彼女を作れって、森崎いちごから引導を渡されたんだろ。どうすんだよ」

〔三〕「あんなデカい子供が三人もいる年増女に入れあげるってのもおかしな話だよ。そっちはそっちで何かに化かされてるんじゃねえの」

〔餌〕「性癖なんだから仕方無いじゃないですか。確かに夏休みに海水浴場で永見まりもちゃんを見た時は、そこそこテンションが上がりましたよ。でも結局子供だし」

〔シ〕「永見まりもは二十三歳。童顔キャラなだけ」

 森崎いちごの事務所の後輩である永見まりもは、今をときめく人気セクシータレントの一人。

 人気グラビアモデルのあさぎちゃんから熱烈アタック? を受けているシャモも、永見まりもを良く知っている。


〔仏〕「お前ら、そう言えば最近合コン合コンって騒がなくなったのな。特に三元さんげん

 合コンにナンパに血道を上げる男(ただし全敗)・三元時次さんげんときじは、信楽焼しがらきやきのタヌキのような目を右へ左へ泳がせた。


〔シ〕「おいちょっと待て三元。まさかお前、抜け駆けか」

〔餌〕「へっ、まさかの三元さんが彼女一番乗り?! 嘘でしょおおおお!」

〔三〕「いや、別に彼女って訳じゃねえが、話が妙に弾むんだ」

〔シ〕「何歳。年上、年下、同い年。どうなんだ」

〔三〕「別に彼女って訳じゃねえ。介護ボランティアで弁当を配ってる人でさ」

〔餌〕「もしやシンママ、熟女、バツイチ」

 餌が興奮して身を乗り出すも。

〔三〕「いや、福祉系の専門学校生。十八歳」

〔餌〕「解散!」

〔シ〕「チキショーっ!」

 餌とシャモが対照的なリアクションをする中、仏像はなんちゃってアルカイックスマイルを浮かべて三元を見守っていた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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