31 ダメな大人たち
ここはしほりの泊まるホテルのとあるツインルーム。
日中に松尾とシャモに声を掛けたチンドン屋スタイルの女性―ミッコ―と、人気真打の
「
「まだ十五歳やしな。ピンと来たら犯罪やで。赤飯ちゃんとナンボ年が離れとると思うとるんや」
「十歳」
「嘘こけ。さすがに二十五歳はサバ読み過ぎや。この四十路」
「それが若さの秘訣よ。若いって事は内臓も若いって事。若さにこだわるのが健康長寿の鍵よ。ミッコは女子力が足りない」
「健康長寿ちゅう言葉が出る辺り、実年齢がダダもれしよる」
「好きに言えば。後二十年もすればアタシの正しさが証明されるわよ」
「はいはい。で、みのちゃんの方はどや。バンドかお笑いでモテそうなタイプやろ」
「この手のタイプは『ギョーカイ』で見飽きたし。チェンジ!」
小柳屋赤飯はみのちゃんことシャモのSNSを見るなりダメ出しをすると、ごろりとベッドに横になった。
「アタシのレーダーに引っかかるのは、強がりで、生真面目で、少しだけ陰の気がある線が細めのイケメン君。そんな子が弱っていたりしたらもうたまらない。餌を上げたくなるの。雨に打たれた子猫ちゃんみたいな」
「相変わらず赤飯ちゃんは男を見る目が無いな。そや、サトシ君とはどうなっとんねん。相変わらずシャンパンタワーで貢ぎまくっとるんか」
「まあね……。でも、あの子は男の子にしか興味がないんだよね」
「そうだと分かってサトシ君目当てにホストクラブに通い詰める人気真打。それで一本創作落語でも作ったらどや」
脳天から一直線に宇宙空間へと突き刺さるレーザーのような声のまま、ミッコは冷たく小柳屋赤飯をあしらう。
「馬鹿だって自分でも分かってるんだけどさ……。でも、でも。あああああ男が欲しいのおお! 今度こそ、本当に、絶対、アタシ幸せになりたーい! もうこうなったらカジノでナンパだ。ミッコちゃん、行くよ」
「嫌やわ。一人で行きや」
※※※
会った事もない四十路女に軽くディスられたシャモは、HDLの富士川Pと共に彼女たちの一階下に泊まっていた。二人はモナコからニースに電車で出国した後に、高速鉄道でパリに出る予定だ。
だがしかし――。
「国鉄と空港がストライキ?! どう言う事っすか富士川さん!」
「まあまあみのちゃん(シャモ)。火事とストはパリの華って言うだろ。パリまではとりあえずレンタカーで行くとして」
「車だと間に合わないって。モナコからパリまでどれだけ離れているか分かります? ニースの空港もストライキ? こんなのムリゲーじゃないっすか」
「レンタカーがだめなら高速バスで行けば良いじゃない。『みのちゃんねるフランス
「レンタカーも高速バスも車。く・る・ま。間に合わないって言ってるでしょうがああ」
「どうせ飛行機も飛ばないし、会社を休む良い口実が出来たわ。こうなったらカジノでもう一勝負してくるか」
「富士川さんの
「良いね良いね、その角度最高! ヤラレタ感がにじみ出てるわ」
がっくりと毛足の長いじゅうたんに膝をつくシャモを、富士川Pは馬鹿笑いしながら録画した。
「ロトエイト(麺棒眼鏡)君に
「本当に行くんですかあああ?! 俺一人でどうしろと。現実逃避は止めましょうよ。え、本当に行っちゃった……。そうだ、松田くーん(泣)!」
ダメな大人よろしく、ぴっちぴちのジャケットを羽織りつつ部屋を出ていく富士川。
銀縁眼鏡に黄色のポロシャツを着た出来の悪い小学生のように叫んだシャモは、頼みの綱の松尾にSNSを投げるも未読のままだ。
「松田君は寝ているか……。
〔僕らは各国大会関係者用のバスでローマに向かっている所です。強行軍きつすぎ。富士川Pは何と〕
〔カジノに行くって言ったきり部屋を出て行った。とりあえず松田君にも連絡したけど反応がない。多分寝てるよな〕
〔松田君はミラノまで車で送ってもらうらしいですよ。同乗させてもらったら。シャモさんの旅費はHDL持ちのはずだし、いっそミラノから帰国した方が〕
まったく
案の定、返信はない。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※ミッコの初出はこちら→https://kakuyomu.jp/works/16818023213029248935/episodes/16818023213559985077
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