22 未熟者(みるいもの)
『お客様のお呼び出しをいたします。鎌倉市からお越しのフジサワシホリ様。お連れ様が、落語研究会部室前でお待ちです。至急、お近くの案内腕章を巻いたスタッフにお声がけ下さい。繰り返します』
飛島の差し金で掛かった
スマホの着信音は呼び出しアナウンスにかき消されて、れんの耳には届かない。
〔うい〕『れんちゃん、どこら? ずっと電話しとったに!』
五回目の着信でようやくスマホを手にしたれんは、くるりと辺りを見渡した。
〔れん〕「校舎のくろ(隅)のベンチ。あっ、おじさま」
〔うい〕『おっさま(
れんはスマホの通話を切ると、ばつの悪そうな顔で仏像の父に頭を下げた。
〔仏父〕「れんさん。五郎君の事、本当にごめん」
赤く濡れた瞳と
〔れん〕「いえ、彼の言う通りです」
れんはそれきり押し黙ると、声を押さえて肩を震わせる。
仏像の父は、ウェットティッシュ片手にれんを無言で見守った。
〔うい〕「やい、れんちゃーん。探したらー。『おっさま(和尚さん)』って何かと思ったら、ゴー君パパの事か」
れんと仏像の父の元に、ういは
〔うい〕「れんちゃん、あんな男はうっちゃれ(捨てろ)」
〔大〕「ちょっとうい、お父さんの前だよ」
大和が小声でたしなめるも、ういは引かない。
〔仏父〕「うちの息子が本当に済みません」
〔うい〕「いくらファンに傷つけられたとはいえ、あんな言いぐさはないのら!」
ういは小さな体をオスのクジャクのように怒らせる。
〔れん〕「ういちゃん、もう良い。うちがみるい(未熟な)だけだったのら。もう、終わったこんだに(終わった事だから)」
れんはういをなだめると、ヴァンプローファーを履いてすっくと立ち上がる。
〔れん〕「おじさま、本当に色々とありがとうございました。もう、息子さんにもおじさまにもご迷惑はおかけしません。それでは」
れんはあっけにとられる三人を置いて歩きだすも――。
〔うい〕「れんちゃん、もうちーっと座っておけ」
靴ずれを起こした足は、れんの思う通りには動かない。
ベンチでれんを囲む三人の姿を、
※※※
〔多〕「坂崎先生、お疲れさまでした」
多良橋が、坂崎にジュースの入ったコップを手渡す。
坂崎は笑みを浮かべてコップを受け取ると、ブルーシートに腰を下ろした。
〔坂〕「年を取るといけません。藤沢(
フランス時代に指揮者コンクールで
〔坂〕「一位と二位じゃ、その後の人生設計が全く変わって来るからね……。そうだ、
〔仏〕「何でわざわざ俺が行かなきゃならないの。欲しけりゃ取りに来るだろ」
〔多〕「女の子にあんな顔させておいて、情けない男だなあ。
〔加〕「ゴーにゃんまじダセえ。ミルクティー色のオスネコはお使いすら出来ねえのかよ」
〔仏〕「俺は、別に
〔加〕「ビビりぶりがネコ以下で受ける」
〔仏〕「ビビってねえし。俺はネコじゃねえ」
〔加〕「行けや、ヘタレ」
加奈に背中を押されるように、買い物袋を下げた仏像は重い足取りで立ち去った。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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