17-3 仏(ほとけ)誕生

〔仏〕「はい、では次のお題に参りましょう」

 餌に司会席を奪われたはずの仏像は、顔色一つ変えずに餌の上に乗って司会を続ける。

〔餌〕「どけろってんだYo! イタイイタイっ、どこ踏んでるのおおおおお!」

 スノボできたえた脚力で餌ラップを封印する仏像。

 仏像の背中を叩きながら抵抗する餌。


〔仏〕「イラストの左側では大工の熊五郎さんが道具を抱えていますね。さて」

〔餌〕「ゴー君ファンのみんあああああ! これがスノボの王子様の本性だよおっ。いたいけなかわいい男の子を平気でいじめるのおおお」

〔仏〕「みなさんは芋名人いもめいじん八五郎はちごろうさんです。通りでばったり出くわした大工の熊五郎さんに向かって一言」

 仏像のカンペを後ろから取り上げようとするも、スノボで鍛えた身のこなしで交わされる餌。

〔餌〕「ひどいのおおおお!」

 あざとかわいい攻撃で客席に訴えるも、客席は無反応。

〔餌〕「ちょっと、今日のお客さんはひえっひえだわ……」

 餌は急にテンションを落としてすごすごと自席へと戻ろうとしたが。

〔餌〕「えっ、虚無きょむって何?! 座布団なし? そんなの聞いてないよおおお! 津島くーん」

 黒子に徹する津島は、何の感情も入れずに餌の座布団を取り去った。




 餌が騒いでいる間に三問目はあっさり終わり、座布団獲得かくとく枚数は以下の通り。


【餌 虚無きょむ(ゼロ枚) 長津田 天界てんかい(六枚) 松尾 畜生界ちくしょうかい(三枚) 麺棒めんぼう 縁覚界えんがくかい(八枚) 今井 天界(六枚)】

 ちなみにケガを恐れた松尾が仏像からもらった座布団を勝手に配るので、座布団の獲得かくとく枚数と笑いの質に全く関係はない。




〔仏〕「さてこれが泣いても笑っても最後のお題。本寸法ほんすんぽうの『アレ』どもが仏界ぶっかい(座布団十枚)目指して死の荒行。ビッグなプレゼントは誰の手に。では行きます」

 薄っぺらい座布団が不毛ふもう円環えんかんことわりを描く中、『昇天しょうてん』は最後のお題を迎える事となった。


〔仏〕「最後のお題はこちら。『こんな景品は嫌だ』。皆さんは商店街の福引に来ています。シークレット賞を当てたあなたは目録をみてびっくり。『こんな景品は嫌だ』と叫びます。はい今井君早かった」


〔今〕「『こんな景品は嫌だ』。スタルヒンと自分のツーショット写真」

 やたら戦前の名投手・スタルヒンにこだわる今井。

〔仏〕「何が嫌なの」

〔今〕「左肩に半透明のスタルヒンが写ってる」

〔仏〕「まずは伽羅きゃらこう般若心経はんにゃしんぎょうを用意しろ。それから」

〔餌〕「偽仏成敗にせぶつせいばいっ!」

 おもむろに除霊じょれいマメ知識を語り始めた仏像を、餌が客席に巴投ともえなげ。

 にやりと解答者席を見渡すと、司会席に座って気配を消していた長津田ながつだを指した。


〔長〕「『こんな景品は嫌だ』。〇○○指揮ベートーヴェンのピアノコンチェルト第四番」

〔餌〕「何が嫌なの」

〔長〕「〇〇〇は何を指揮してもクソ」

〔松〕「ストーっプ! ダメえ。それだめええ!」

 クラオタの長津田ながつだらしい回答を、〇〇〇とコンチェルト四番で共演予定のピアニストである松尾があわてふためいて止める。


〔餌〕「さあそれでは元落研の助っ人ロトエイトこと麺棒めんぼう君」

 空気化がこうそうして縁覚界えんがくかい(座布団八枚)に登っていた麺棒は、完全な不意打ちに半分無意識でぽろっと一言。


〔麺〕「ユキヒョウの赤ちゃん?」

〔餌〕「それは確かに嫌だ。で、その赤ちゃんをどうしたの」

〔麺〕「実家をつぶして動物園にした。何かありきたりでごめん」

 首をひねりながら答えた麺棒に対し、えさはひいひいと笑い転げながら座布団二枚を麺棒にやる。


〔餌〕「何と放送部との掛け持ち助っ人、ロトエイトこと麺棒眼鏡めんぼうめがね君が仏(座布団十枚)にっ!」

〔麺〕「えっ、うそでしょ。今の面白かった?!」

〔仏〕「そんな答えで仏(座布団十枚)はナシだ! 新顔役総務さん、模範解答をどうぞ」

 巴投げから生還した仏像は、司会席に戻ると餌に模範解答を要求した。


〔餌〕「ずるいぞ! 一回も解答しないまま終わる気?!」

 餌は仏像に模範解答を求めるも。


〔飛〕「落語研究会の皆様、予定時間オーバーにつきすみやかにご退場をお願いいたします。なお、本会場では午後一時よりグリークラブの発表会が行われます」

 放送部の飛島からの非情な宣告が合図となり、一方的に暗転幕あんてんまくが下ろされた。



※※※



〔う〕「案外面白かったのら。あれ、れんちゃん?」

 井原ういは小さな背を大きく伸ばし、双子の妹の姿を探す。

〔大〕「ゴー君の半裸に鼻血ブーでお手洗いに行ったのかも」

 筋金入りの仏像ファンである井原れんの姿が見当たらず、ういと大和やまとは首をかしげる。


〔大〕「それかゴー君(仏像)のお父さんに連れられて、家族特権で舞台裏にいたか」

〔う〕「それら! さすがはれんちゃんなのら」

 しかしながら、ういと大和やまとの見立てはまったくの的外れであった。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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