11 モテすぎちゃって困るの

〔餌〕「こちらは一並ひとなみ高校落語研究会でーす。寄席よせの整理券はこちらでお配りいたしまーす」

〔仏〕「開催時間は午前十一時から午前十一時五十分まででーす」

〔松〕「入場無料でーす。よろしくお願いしまーす」


 ついにやって来た文化祭。

 うどん粉病Tシャツを着たえさに仏像と松尾は、特設ブースで呼び込みをしている。


〔シ〕「おはよう。森崎さんご一家とあさぎちゃんの分の整理券をちょうだい」

〔餌〕「えっ、いちご様ロワイヤルファミリーの御到着ですか」

 餌を熟女至上主義にした伝説級のセクシータレントの名に、えさは小柄な体を弾ませる。


〔シ〕「いや、まだだけど正門前で待ち合わせしてるから。旦那と子供の前だから紳士的に振舞えよ。絶対約束な」


〔餌〕「いちご様は、ご家族に仕事内容を伏せておられるのでしょうか」

〔シ〕「そりゃいくら何でも無理だ。旦那は雑誌の編集者さんで、仕事がらみで出会った人なんだって」

 上手い事やりやがってとえさが口をとがらせていると、三元さんげんがやって来た。




〔三〕「シャモの代わりに竜田川千早たつたがわちはや師匠は俺が連れてきた」

〔千〕「ちょいとお待ち。その名はもう捨てたんだよ。今のアタシは藤巻ふじまきし」

〔シ〕「最後まで言わせねえ。あなたは本名唐田からたとは、芸名が竜田川千早たつたがわちはや


〔千〕「アタシは藤巻ふじまきしほりに改名したって言ったでしょうよ。聞き分けの無い子は嫌いだよ全く」

 竜田川千早たつたがわちはや印籠いんろうを取り出すように、【『吾輩わがはい昌華まさか(以下略)』feat.藤巻ふじまきしほり】のマグネットステッカーをシャモに押し付けた。




 そして三十分後。

 森崎いちごが、グラビアモデルにして『みのちゃんねる』の古参フォロワーのあさぎちゃんと共に正門前に現れた。


〔森〕「みのちゃん久しぶり。上の子は公立中に入れたんだけど、この子たちは一並ひとなみに入れようかと思ってね」


 普段に比べてやや露出の少ない格好の森崎いちごとあさぎちゃんは、それでも女っ気の少ない男子校で注目を浴びるに十分だった。


〔み〕「どうもお久しぶりです。これ文化祭のパンフ。それからうちの寄席よせの整理券です。後輩が出るんで、良かったら後で見てやってください」

 森崎いちごとあさぎちゃんに頭を軽く下げると、シャモは学内を案内しますよと告げた。


〔長男〕「プロレスだって。見たい」

 うおおおおと次男にラリアットもどきをかます長男に、森崎いちごの尻にしがみいて交わす次男。

 いずれ劣らぬ典型的な小学生男子である。


〔あ〕「みのちゃん、パンダ君(餌)は。せっかくいちごねえさんが来たのに」

〔シ〕「ちょうど今はマイクリハーサル中なので。悔しがると思いますよ。ってあさぎちゃんさん近いって」

〔森〕「みのちゃん。アタシらは勝手にうろうろしてるから、あさぎちゃんとしっぽりやんな」

 シャモがあさぎちゃんをいなしていると、森崎いちごが大声でカラカラと笑った。



〔井〕「ちょっと、シャモさんの今度の相手はあさぎちゃんかよ。ありえねえ」

〔山〕「おいおいおい、みのちゃんねるの分際ぶんざいでどう言う事よ」

〔井〕「チキショー。いつの間にかモテキャラになりやがって」

〔山〕「超お嬢様の次はグラビアモデル。人気配信者ってだけでこれかよ」


 プロレス同好会を冷やかしに行く途中の井上と山下が、シャモの腕に絡みつくあさぎちゃんを見て騒ぎ出す。


〔シ〕「あさぎちゃんさん。ここ学校っ」

〔あ〕「えーっ、良いじゃん」

 シャモの右腕を取って『むぎゅー』ポーズを決めるあさぎちゃんに男どもがざわついていると、シャモの左腕に骨ばった感触が伝わった。


〔千〕「アタシと言うものがありながら浮気? いけない子だね今夜はお仕置きだよ」

 シャネルの五番をこれでもかと香らせた竜田川千早たつたがわちはやが、ろっ骨の浮いた両胸を『むぎゅー』ポーズでVネック越しに見せつける。


〔あ〕「ちょっとおばあちゃん。おあたま大丈夫ですか」

 シャモの右腕をあさぎちゃんがご自慢の胸で挟み込む。


〔千〕「あんた、アタシと若旦那(シャモ)の邪魔をすんじゃないよ」

〔シ〕「はーなーせっ! 竜田川千早たつたがわちはやこと唐田からたとはさん。今すぐ二メートル以上離れてください。セクハラです」


〔千〕「だからあたしは藤巻ふじまきしほりに改名したって言ってるだろ。学校だからって照れることはないだろ、あんた成人したんだしさ」


〔あ〕「あらあらおばあちゃん、セクハラはいけませんよ。それに、オムツがスカートから丸見え。そろそろオムツ交換のお時間ですよ」

〔シ〕「だから二人とも離してってばああああ!」


 両腕に絡みついた二人の女に、シャモは宇宙人のごとく連行されていった。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。


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