第35話 オーク討伐依頼。

 

「……と、とにかく今日は依頼を受注するわ」




『暴れ牛亭』を出たときだった。

 エリーゼが改まった口調でそう言う。

 やっぱりまだ恥ずかしさが残っているようだ。




「そうだね。冒険者組合に行こうか」




 僕たちは宿で早めの朝食を摂り、すぐに出発した。

 まだ早朝と呼べる頃合いで街中では人はあまり見かけない。

 そして冒険者組合の建物に到着した。




 中はすでに大勢の冒険者たちがいた。

 もちろん全員依頼を受けるためだ。

 なので依頼票が掲示してある壁をたくさんの冒険者たちが食い入るように見ている。




「今日もDランクの依頼でいいわよね?」




 僕が頷くとエリーゼは掲示板に乱雑に貼られた依頼票をひとつひとつチェックし始めた。そして僕のそれを見習って一枚一枚見てみる。




 さすがはDランクなので、Eランクと違って強い魔物の討伐依頼もあった。

 Eランクじゃ魔物はゴブリンくらいなのだが、Dランクはオークが多い。

 オークはエリーゼと一度戦っているけど、トドメを刺したのはエリーゼだ。

 僕ひとりじゃ勝てない相手だね。

 って言うか、僕は転ばすだけだから、相手がゴブリンでも結局誰かの手を借りないと戦えないんだけどね。




 そんなことを考えながらぼんやりと依頼票を見ていた。

 そのときだった。




「マキラ。これ、どうかしら?」




 エリーゼが一枚の依頼票を指さした。

 オーク討伐だった。




「場所はちょっと遠いけど行くだけなら日帰り可能な距離ね。で、どう?」




 そこに書かれていたのはイチバーンメの街から徒歩で半日くらいの場所にある田舎村の依頼だった。

 村にオークが現れて田畑と家畜が荒らされて困っているとのこと。

 このまま放置すると人的被害も出そうな案件だった。




「でも徒歩で半日じゃ往復だけで一日かかっちゃうよ?」




「乗合馬車があるのよ」




 なるほど。

 馬車ならば徒歩よりも速い。徒歩の倍の速度は出るだろうからオークをさっさと討伐できれば日帰りできるね。




「でも実際はたぶん村で宿泊ね。もしかしたら2、3日かかるかも」




「え?」




 意味がわからない。

 すると僕の顔に疑問が浮かんでいるのがわかったようでエリーゼが説明してくれる。




「確かに行くだけなら日帰りは可能よ。でも肝心のオークがいつ出没するかわからないから」




 そういうことか。

 確かに相手があっての話だ。オークが到着してすぐに現れるとは限らないよね。




「でもいいよ。エリーゼに任せるよ」




「じゃあ決まりね」




 そうしてエリーゼは依頼票を剥がし、受付に持って行くのであった。

 ちなみに討伐報酬はオーク1匹につき金貨1枚。

 村で確認されているオークは3匹とのことだった。




 ■





 結局日帰りは無理だった。

 乗合馬車に乗れたので村に到着したのは昼前だったんだけど、オークが姿を現さない。

 僕とエリーゼは荒らされた果実園の樹木の状態や襲われた家畜小屋の羊などの確認しただけだった。




「酷い有様ね」




「力任せに無茶苦茶って感じがする」




 果実は枝ごと何本もへし折られ荒らされていた。

 そして家畜は小屋と柵を壊されている。




「毎日襲ってくるのではないのですじゃ……」




 困り顔の老人がそう教えてくれる。

 彼はこの村の村長とのことだ。




「平均すると2、3日に1回来るといった具合なのですじゃ」




「前回はいつ襲われたんですか?」




「昨日ですじゃ。羊が2頭と果樹園が被害に遭いましたじゃ」




 僕が尋ねると村長さんがそう答えてくれる。




「と、なると明日か明後日が次の襲撃日ね」




 エリーゼが腕組みをしてそう呟いた。

 ……どうでもいいけど、エリーゼ、胸が腕で押し上げられて盛り上がってるってば。

 僕だけじゃなくて村長さんも目が泳いでいるよ。




 その日は結局オークは出現しなかった。

 なので村で宿泊。

 小さな村で宿屋などないので村長さん宅で世話になった。

 こういう村の場合、来客のために村長の家には必ず客間がいくつもある。

 僕たちが使わせてもらったのも、そういう一室で、気を利かせてか僕とエリーゼは別室に案内された。

 ま、いいんだけね。


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