第36話 オークと他の何者か。
翌朝のことだった。
まだ完全に夜が明けきっていない頃。
部屋の扉を遠慮がちにノックする音がした。
「マキラ、起きてる?」
エリーゼだった。
扉の向こうから声をかけてくる。
「今、起きた。どうしたの?」
「嫌な気配を感じるの。オークかも」
「わかった。今準備する」
そして僕はベッドから起き、帽子とローブと杖を準備する。
「気配って、どっちの方角から?」
「北側の方よ」
「ってことは森の方だね」
この村は南側は街道に面していて、北側は深い森だった。
やはりオークは森の中で生活しているようだ。
「北側には家畜小屋もあるから、それが狙いかもね」
「じゃあ、家畜小屋辺りで待ち伏せってことでいいのかな?」
「そうね」
そして僕とエリーゼは村長宅を出て村の北へと向かう。
先頭を進むのは斥候職で気配探知が得意なエリーゼだ。
「あれ? 武器変えたの?」
「ええ。ミサイアにもらった短剣を試すいい機会だと思ってね」
そうなのだ。
エリーゼの腰にはいつもの短剣ではなくブルーオーガのミサイアからもらった新しい短剣が吊ってあったのだ。
「握った感じも重さも私にぴったりで、期待できそうよ」
エリーゼは腰から短剣を抜き笑顔でそう言うのであった。
刃がきらりと光る。
確かに切れそうな感じだね。
そして家畜小屋に到着した。
前回オークに破壊された箇所は応急的ではあるけど修繕されている。
小屋の中からはもう起きている羊たちの鳴き声が聞こえてきた。
「どこで待ち伏せするの?」
「まずは風下ね。オークは鼻がいいから。それに目も耳も優れているわ」
「だとすると……。あの辺り?」
僕はちょっと離れた場所にある作業小屋らしき建物を指さした。
丸太と板で造られた粗末な小屋だった。
「そうね。森から風下に当たるしあの小屋にしましょう」
僕とエリーゼは小屋に入る。
そこはやはり作業小屋のようで簡単な椅子と作業台、そして農具なんかが置かれていた。
「森。見えるね」
「見張るには最適ね」
小屋は粗末な造りなので壁板に隙間があり、そこから森を監視することができたのだった。それから僕たちは隙間から森をじっと観察する。
そして30分くらい経過したときだった。
「……来たわ」
「え、どこ?」
「ほら、あそこに大きな木が3本並んで生えているでしょ? その根本にオークが潜んでいるわ」
本当だった。
大きな木の下には膝丈くらいの下草が生えているんだが、そこに蹲るようにして3匹のオークが隠れているのが見えたのだ。
「でも、丸見えだね」
「あれでもオークの知恵では隠れているつもりなのよ」
それから二人で作戦を立てた。
あのオークたちが動き出してこの小屋に近づいたら僕の転倒魔法で動きを止めて、エリーゼがトドメを刺すと言う、まあ、いつもの通りのやり方だ。
「……じゃあ、オークたちが動くのを待とうか」
僕がそう言ったときだった。
「――待って。ちょっと様子がおかしいわ」
エリーゼが緊迫感の籠もった鋭い声を発した。
「おかしい……って?」
僕はもう腰を上げかけていたのだったが、再び腰を下ろす。
そしてエリーゼを見るのだった。
「……気配が濃いの。オークだけじゃないわ。……他にもなにか隠れているのよ」
「なんだって?」
僕は壁板の隙間から外を覗く。
そこには下草に隠れきれていない巨体のオーク3匹しか見えない。
……違った。
オークの周りに完全に下草に姿を隠した何者たちかがちらりと見えたのだ。
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