第34話 エリーゼの反省。

 

「……帰ろうか?」




 そう切り出せたのはエリーゼが酔い潰れてテーブルの突っ伏してからだった。

 あの後もエリーゼはエールを飲み続けた。

 なので合計10杯ではきかないくらい飲んだのだった。




 そして僕はエリーゼに肩を貸し、宿屋である『暴れ牛亭』まで引きずるようにして歩いた。幸いそれほど距離がなかったのでこの苦行は30分程度ですんだのであったが……。




 宿の部屋に入る。

 ランタンの明かりを灯したことで部屋の中はぼんやりと明るくなった。

 僕は朦朧としているエリーゼを彼女がいつも使っているベッドに座らせた。

 この後、横にさせて毛布をかけてやれば今日の仕事は終わりだな。




 そう思ったときだった。

 ベッドの上に横座りしていたエリーゼが上着のボタンを外したのだ。

 そしてそれを脱ぐとさらしに巻かれた胸があらわになる。




「……な、なにを……!」




 僕が戸惑いの声を漏らしたのだけど、エリーゼは手を止めない。

 今度は胸を隠しているさらしをするすると解き始めたのだ。




「……私ね。狼獣人族の中ではそれほど胸が大きいって訳じゃないけど、種族的に人族よりも大きいと思うの……」




「……う、うん。そ、それで……?」




 僕はアワアワしていた。

 手を伸ばしてエリーゼの動作を止めたいが裸の身体に触れるなんてできそうにない。




「……なのに。……なのに、もう何日も同じ部屋で寝ているのにマキラはどうして私に来ないの……? 私、そんなに魅力ないかなぁ……?」




「み、魅力あるって! 魅力的だから、ね、だから、そんなことは止めようよ」




 僕が言葉で必死に止めるにも関わらず、エリーゼはさらしをどんどん解いていく。

 そしてやがて薄明かりの中であらわになる純白のたわわな果実……。




「うわあっ……!」




 悲鳴を上げてしまった。正直きれいだと思ったけど、僕の頭がどうかなりそうだ。




 僕は目をつぶってエリーゼに飛びかかった。

 もちろん襲うためじゃない。寝かすためだ。




「なあにぃ?」




 僕の突撃を受けたエリーゼはベッドに倒れた。

 それをいいことに僕は毛布をエリーゼに被せた。




「お休み!」




 そう言った僕は自分のベッドに戻り毛布を頭から被る。

 そして荒くなった息を整えようと深呼吸を繰り返す。

 だけど、見えてしまったエリーゼの裸が目に焼き付いてしまっていて、なかなか正常心に戻れない。




 そんなときだった。




「すーすーすー……」




 向こうのベッドから寝息が聞こえてきた。

 どうやらエリーゼは眠ってしまったようだった。

 やれやれだった。




 ■




 朝。

 目が覚めた。

 外は明るく今日も晴れているのがわかる。




 僕がベッドから身体を起こすと自分のベッドに向こう向きに座って僕に背を見せているエリーゼが見えた。

 もちろん服はちゃんと着ている。




「おはよう」




 声をかけた。

 するとエリーゼの肩がピクリと反応した。そして両耳がペタンと下がった。




「……マ、マキラ。……ご、ごめんね」




「なにが?」




「……私、ちゃんと覚えている。お店で愚痴をこぼしたことも、この部屋に帰ってから自分がなにを言ってなにをしたかも……」




「……」




 どうやらエリーゼは酒癖は悪いようだが、記憶は失わないタイプのようだ。

 なので昨夜の醜態をしっかり憶えているみたいだ。




「大丈夫だよ。ぜんぜん気にしてないから、エリーゼも気にしないで」




「……ホント?」




 そう言ってエリーゼは首だけ動かして僕を見た。

 その顔は羞恥なのか真っ赤になっているし、表情は涙目だ。

 だけどそんな顔でも美少女は美少女でとっても可愛らしく魅力的だった。




「……恥ずかしいよぉ。自分が言ったことも裸を見せちゃったことも……」




「だ、大丈夫だよ」




「……ホ、ホント? 私のこと嫌いになっちゃったんじゃないの? ……嫌いになっちゃったからパーティから出ていけって言うんじゃないの?」




 泣き腫らした真っ赤な目で僕を見る。




「なに言ってんだよ。嫌いになんかなる訳ないし、第一パーティのリーダーはエリーゼだよ。追い出す権利はエリーゼの方にあるんだよ?」




「……で、でも……」




「ほら、ぜんぜん気にしていないからさ」




 僕は立ち上がって両手を大きく振ってみせる。

 それがどういう意味なのか自分でもわからないが、身体全体で平気さをアピールしたんだ。




「……私、ホントはふしだらじゃないのよ……」




「わかってる。お酒を飲み過ぎただけだよね?」




「……し、したこともないからね……誰とも……」




 うつむき加減で上目遣いで僕を見るエリーゼ。

 顔は真っ赤で耳はペタンと下がっていて尻尾もダランと力なく下がっている。

 そして目には涙をいっぱい貯めている。




「……わ、わかったよ。ホントにわかってから」




「ホント? ……ありがとう。……今度から飲み過ぎないように気をつける、から……」




 そう言ってエリーゼはやっと笑顔になるのだった。



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