第31話 お礼の短剣。

 

「とは言っても金目のものは持っていないが……。代わりにこれを与えよう」




 そう言って腰に持っていた短剣を鞘ごと渡してきた。

 僕はそれを受け取る。




「いいんですか?」




「ああ。同胞を救ってくれたのだからな。それに私は里の長から別に報酬を貰えるので気にするな」




 そう僕たちに告げるとミサイアさんはリーアを伴って背を向けた。

 リーアは一度、ミサイアさんから離れるとエリーゼに抱きついて改めてお礼を言う。

 そしてその後、ミサイアさんといっしょに森のもっと深くに姿を消すのだった。




「……帰ろっか」




「そうね。イチバーンメに戻りましょう。早くしないと夜になってしまうわ」




 僕とエリーゼは方角を確認してイチバーンメの街へ帰るために森を歩き始めた。




「あ、そうだ。この短剣、エリーゼがもらってよ」




「いいの? だって二人の報酬よ」




 僕はいいと返事した。

 僕は魔法使いで短剣は使いこなせない。なら短剣使いのエリーゼがもらった方が正しい選択になるだろう。




「……こ、これ、すごい業物よ……。ブルーオーガの戦士ってこんなにすごい武器持ってるのね」




 受け取った短剣を鞘から抜いたエリーゼの言葉が止まった。

 ギラリと日を受けて光る刃にはなにか神々しい輝きが感じられる。




「エリーゼの装備しているのよりもいいものなの?」




「私のは街で普通に売ってる安物よ。比べ物にならないわ。ホントに私がもらっていいのかしら」




 キラキラした目でそう尋ねるエリーゼに僕は頷くのであった。




 そして僕たちはゴブリンの集落まで戻り、そこを目印にして元来た道を戻った。

 一度通った道なので迷うこともなく順調に進み、夕方にはイチバーンメの街に到着できた。そしてその足で冒険者組合の事務所に赴き、マリーさんに依頼の結果報告をした。

 もちろん討伐証明部位である耳は切り取って持って来てある。




「死骸はそのまま放置した状態です。私とマキラの二人しか人数がいないので埋めるとか焼却するとかはできていません」




「わかりました。明日にでも冒険者に依頼を出して作業を行わせます」




 マリーさんはそう返事をしてくれた。

 魔物の死骸は少量ならば放置でいいのだが、大量となるとその死肉が他の魔物を呼び寄せるし、集落の小屋も魔物のすみかとして再利用されてしまうこともあるらしい。

 なので、集落討伐のときは本来は死骸の処理と小屋の破壊も行うのが通常とのこと。

 ま、僕たち『ひとつの足跡』はたった二人しかいない少人数パーティだから、人海戦術が必要となる後始末はどうしても苦手であった。




 そうそう。

 僕たちは冒険者組合受付嬢マリーさんに内緒にしている報告があった。

 それは囚われていたリーアのことだ。

 別に囚われていた女の子がいたこと自体はなにも隠す必要はないんだけど、リーアがブルーオーガであることが問題になる。




 エリーゼによるとブルーオーガは知的な存在で人間を襲うことはないらしいのだけど、人間側はブルーオーガもただのオーガと同じく一括りに魔物扱いしているので、その存在は伏せた方がいいと判断したのだ。




 ブルーオーガが知的で友好的なのはリーアとミサイアさんと接してわかったしね。

 だからあの森にブルーオーガがいたことや森の深部に集落があることはわざわざ報告することはないだろうとリーダーのエリーゼが決めたので僕のそれに同意したのだ。




 そして依頼達成の報酬をもらった僕とエリーゼは宿屋『暴れ牛亭』に行き、夕食を食べて休むのであった。




 ■




 翌日。

 僕たちは今日を休日にした。

 エリーゼに言わせると冒険者は連続して働き続けると疲労が溜まり、注意力も落ちて依頼に失敗、最悪死者が出てしまうことが多いらしいのだ。

 なので、僕は素直に従った。エリーゼはリーダーだし冒険者の先輩でもあるしね。

 そして宿泊している『暴れ牛亭』で遅めの朝食を摂り、その後は部屋でのんびりしていた。




「武器屋に行こうと思ってるんだけど、マキラも来る?」




「武器屋? ……ひとりで部屋にいても暇だし僕も行こうかな」




 そういうことで僕たちは街に出た。

 そして大通りを歩き武器屋街に到着した。




「武器屋になんの用事があるの?」




「短剣を研ぎに出すのよ。それと……、ミサイアにもらった短剣も鑑定してもらおうかなと思って」




 話を聞くと剣はときどき研ぎに出さないと切れ味が悪くなるってことだ。

 切れ味が悪くなるってことは相手にダメージを与えられなくなることで自分の命にも関わる大事なことだと教えてくれた。




 そして一軒の武器防具屋に着いた。




「ここ?」




「そう。私はいつもこの店を使っているわ」




 エリーゼ行きつけの武器屋は割りと小ぢんまりとした店だった。

 周りには大きな武器屋もあるのだが、ここがお気に入りだと言う。

 なんでも店主と気が合うのだとか。




「よお、エリーゼじゃないか」




 店に入るとカウンターの向こうにいた店主がそう声をかけてきた。

 見ると背が低くずんぐりとした体型で頬と顎のヒゲがすごい。

 ……たぶんドワーフなんだろうな。

 僕は絵でしか見たことないけど、きっと合っているはずだ。


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