第24話 ひとつの足跡。

 

「まずは座りましょ」




 そう言ってエリーゼさんが椅子に座った。

 なので僕も丸テーブルを挟んで反対側に椅子を運び、座る。




「私たちはパーティになったんだから、方針を決めましょう」




「なるほどです。僕はやがてはニバーンメの街に行きたいです」




「お師匠さんを探す件ね?」




「はい」




「なら、まずはマキラ君が他の街でも依頼が受けられるDランクになってもらう必要があるわね」




「だとするともっと依頼を受けて昇格を目指す、と」




「そうなるわ。明日、冒険者組合で依頼を探しましょう」




「わかりました」




 僕がそう答えるとエリーゼさんは立ち上がった。

 そして武装を解き始めた。

 革製の胸当てを外し、ポケットがたくさん付いている上着を脱いだのだ。

 だが、脱ぐのはそれだけではなかった。

 シャツのボタンも外し始めたのだ。フサフサの尻尾がなぜか左右に揺れている。




「……ちょ、ちょっとエリーゼさん、なにしてるんですかっ?」




「着替えるだけよ。裸にはならないから安心して」




 そうは言われても安心なんてできない。

 僕は顔をエリーゼさんから外したのだけど、目線は追ってしまう。




 ……さらしだ。




 シャツを脱いだエリーゼさんは上半身はさらしだけとなった。

 その豊かな胸を動かないように固定するにはさらしがいいんだろうな。




「ねえ、マキラ君。私たちパーティを組んだのだから呼び方を変えない? 私のことはエリーゼって呼び捨てでいいから、私はマキラって呼ぶからね」




「え? ……わ、わかった。エ、エリーゼ……。これでいい?」




「うん、上等よ」




 なんだか気恥ずかしさがあった。

 だけど距離は縮まった気がする。




「それと決めなきゃならないのが2つあるのよ」




 さらしの上に緩やかな部屋着を着たエリーゼが言う。




「2つ? なにを?」




「パーティ名とリーダー。これは明日、組合に報告しなくちゃならないのよ」




「そうなんだ。……パーティ名か」




 僕はこういうは苦手だ。

 なんかかっこいいのがいいと思うんだけど、実力が伴っていない今現在であんまりかっこいいのを名乗るのはおこがましい感じがするんだよね。

 例えに出して悪いけど、エリーゼに絡んできたスキンヘッドの『怒涛の波濤』みたいなヤツ……。




「それに……リーダー。……リーダーはやっぱりエリーゼがしてよ。僕より年も上だし経験も豊富だし」




「私? ……なら、リーダーは私がやってもいいけど、じゃあパーティ名はマキラが決めて」




「……考えておくよ」




 その晩である。

 気がつけば横のベッドではエリーゼが美しい寝顔を見せて眠っていた。

 外には月が出ているのが窓から見える。

 そしてとても静かな夜だった。




 ……パーティ名か。

 派手じゃなくて一度聞いたら憶えてもらえるようなものがいいだろうな。




 僕はベッドの上で仰向けになりながら天井を見つめて熟考する。




 そのときだった。

足跡そくせき』と言う単語が浮かんだ。

 例えば新雪の雪原に足を踏み入れて振り返ると自分の足跡だけが残っている。

 それが自分たちの冒険の実績と重なるイメージ……。




 ――ひとつの足跡そくせき




 決めた。

 俺はこのパーティ名を明日エリーゼに提案してみようと思ったのだった。




 ■




 そして翌朝。

 僕がベッドで目を覚ますとエリーゼはすでに起きていた。

 ベッドから上半身を起こして僕の方を見ていたのだ。




「おはようマキラ。よく眠れた?」




「おはようエリーゼ。うん、よく眠れたよ。……あのさ、夜中にパーティ名を考えたんだけど」




「なんて名前なの?」




「うん、『ひとつの足跡』ってのはどう?」




「いいわね。ちょっと地味な印象もあるけど控えめなマキラの性格がわかる名前ね。私は好きよ」




「ホント? じゃあ、パーティ名は『ひとつの足跡』でいいね?」




 エリーゼはにっこりと笑って頷いてくれた。

 こうして僕とエリーゼのパーティ名が決まったのであった。


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