第23話 師匠の正体と二人部屋。
「でも……。師匠は若いですよ」
「そう見えるだけだ。ヤツは魔女だ。年はとらない」
「……」
衝撃の事実だった。
マキラは師匠の本当の年齢を知らない。教えてくれないからだ。
まさか魔女だったとは……。普通の人族だとばかり思っていたよ。
見た目はただの若い女性にしか見えなかったし。
酒癖の悪さとか片付けができないとか妙に人間くさいし。
「アルはニバーンメの街に行くと言っていたな……」
ニバーンメ。
ここから馬車で3日ほど離れている大きな街らしい。
いくつもの街道が交差する交通の要所で、このイチバーンメからの道もその中のひとつと教えてくれた。
「ニバーンメ。……行ってみようかな」
「おっと。冒険者が他の街へ行けるのはDランクからだ。行きたいのであれば早く実績を上げて昇格するんだな」
「オークを簡単に倒し、ワイバーン討伐にも活躍したマキラさんなら、いくつか依頼をこなせば昇格できますよ」
マリーさんがニッコリと笑った。
僕はエリーゼさんを見る。
「エリーゼさんはニバーンメの街に行くのは反対?」
「そんなことないわ。冒険者は冒険するものよ」
笑顔でそう賛成してくれるのであった。
■
「しかし、あのアルが弟子を取っていたとは思わなかったぞ」
マキラとエリーゼが去った支部長室でローランドがそう呟いた。
ローランドは昔を懐かしむように目を細め遠くを見ている。
「アルさんと言う方はそれほどの方なのですか?」
マリーが問う。
きれいに編み込まれた長い金髪を揺らし、整った顔になる。
「ああ。見た目も威力もとにかく強烈なヤツだった」
「案外ですが、支部長はアルさんのことを好きだったとか?」
「ははは。まあ、な。……昔のことだ。今は俺には嫁さんも娘もいることだしな」
ローランドはそう言うと瞑目するかのように静かに目を閉じるのであった。
■
時刻はすでに夕方になっていた。
食事は祝勝会ですでに済ましているので、どこかに食べに行く必要はない。
僕はエリーゼさんと冒険者組合の建物の前にいた。
僕がローランドさんに解放されてここを出たら、そこでエリーゼさんが待っていてくれたのだ。
「マキラ君、宿はどこに泊まっているの?」
「『暴れ牛亭』って言う、ここから20分くらいの宿」
「ふーん。……じゃあ私もそこに泊まろうかしら」
「へ? どうして?」
「私たち、パーティを組むんでしょ? だったら同じ宿の方が打ち合わせとかもしやすいし」
「なるほど」
そんなことを話しながら歩いていたら『暴れ牛亭』に到着してしまった。
僕とエリーゼさんは中へと入る。
カウンターにはいつもの中年のおばさんがいた。
「二人部屋、空いてるかしら?」
「えっ、二人部屋?」
僕は驚いてしまってエリーゼさんを見てしまう。
だがエリーゼさんは僕の戸惑いなんかお構いなくウィンクひとつで黙らされる。
「空いてますよ」
「なら、このマキラ君が借りていた一人部屋は解約して、二人部屋をひとつ借りるわ」
「え、ええええっ~!!」
そりゃね、僕だって男だ。
こんなきれいなお姉さんと同じ部屋にいっしょにいたいかって訊かれればいたいって言うさ。
でもね、僕とエリーゼさんは年頃の男と女なんだよっ!
でも結局どうにもならなかった。
おばさんは二人部屋の鍵を渡してくれただけだったのだ。
「お、お邪魔します……」
「なに言ってるの。変なマキラ君」
二人部屋に到着した
部屋の中は昨日停まった部屋よりもちょっとだけ広かったけど、あんまり変わり映えはしない。
ただひとつだけ大きく違ったのはベッドが2つあることだ。
しかもなぜかぴったり並べて置かれているんだ。
「ベッドの配置が……」
「気になる? 気になるなら離すわ。……でも冒険者パーティなんて男女雑魚寝が当たり前だから私は気にならないわよ」
整った美しい顔でエリーゼさんが意外な話をしてくる。
「雑魚寝ですか……?」
「ええ、特に野営のときなんかはそうね。辺りを警戒しながら夜を明かさなければならないから、自然と固まって寝るのよ」
「なるほど」
この部屋のベッドの配置を見ても動じないエリーゼさんの理由がわかった。
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