第21話 祝勝会。

 

「坊主、よくやったな。ヤツらを落としたのは坊主だろう?」




「はあ、まあ、一応……」




 そう答えるとライナスさんは僕の肩をぽんぽんと軽く叩く。




「このことは、ちゃんと冒険者組合には報告しておくからな」




 そう言うとライナスさんは片手を上げながら僕に背を見せて歩き去るのであった。




「良かったわね」




 振り向くとエリーゼさんがいた。




「ライナスさんがちゃんとマキラ君の貢献を報告してくれるってことよ」




「どういう意味?」




「緊急討伐依頼料以外に報酬がもらえるかもしれないってこと」




 ほう、なるほど。それは嬉しいかもしれないね。

 もらえるものはもらっておきたいよ。




 そうして冒険者たちは一部がワイバーンの解体に残り、残りの大勢は街へと戻るのであった。




 ■




 そして冒険者組合事務所。

 その建物の1階には足の踏み場もないほどの多数の冒険者たちが集まっていた。

 祝勝会である。

 各丸テーブルには料理が豪華に並んでいる。人数の関係で立食形式だ。




 冒険者たちは手に手に木製のマグカップを持っている。

 中身はもちろんエールだが、僕のカップには果実水が入っていた。

 それは僕が成人年齢に1歳届いていないからだ。




「お酒っておいしいんですか?」




 僕はそんなことをエリーゼさんに尋ねていた。

 すでに17歳のエリーゼさんは当然成年でカップの中はお酒であるエールが満たされている。




「ふふん。おいしいわよ。マキラ君もあと1年で飲めるんだから楽しみにしておいたら?」




 僕はカップの中を見る。




「そうですね。……そう言えば僕の師匠はお酒が好きでよくエールを飲んでいました」




「マキラ君はこっそりでも飲んだことないの?」




「ダメでした。師匠がそいうこうとはとても厳しかったので」




「ふーん。真面目な方だったのね」




「どうでしょうか? 自分の取り分が減るからじゃないですか」




 そんな会話をエリーゼさんと交わしていると会場に大きな声が響き渡った。

 冒険者組合の支部長であるローランドさんが一段高い壇上にいた。みんなの前でカップを掲げて立っていたのだ。




 会場はすごい盛り上がりだ。

 大戦果を上げてタダ酒が飲めるのだから、荒くれ冒険者たちの盛り上がりは熱狂的だった。




「それでは祝勝会を始める。




 今回の件については領主様もいたくお喜びだ。そのため今回の祝杯の酒、料理は領主様より提供して頂いた。そのことに感謝の気持ちを持ってもらいたい。まずは乾杯!」




「「「「「乾杯っ!」」」」」




 ここに集まった全員がカップを傾けて中身をあおる。

 途端に盛大な拍手が響き渡った。




「まずはめでたい。ワイバーン5匹を討伐して、こちらに死者がひとりも出なかった。まさに神の祝福だ」




 そうなのだ。

 今回の討伐に参加したのは50人と少しいた。

 だけど軽傷が数名出ただけで命を落とした者はひとりもいなかったのである。




 まずワイバーンを地上に落として無力化して、魔法で徹底的に叩き、剣でトドメを刺すと言うお手本のような展開にすることができたからだ。




 これが空からの急降下攻撃を食らっていたら、当初言われていた通りに牙や尻尾の棘で襲われて死者が二桁に達した可能性はかなり高いそうだ。




 それからしばらくは冒険者同士での語らいの時間になった。

 辺りを見回すとスキンヘッドの4人組がいた。例の『怒涛の波濤』の連中だ。

 彼らも冒険者だから当然参加していたんだろうな。




 あ、僕と目があったらそっぽ向いたよ。

 まあ、嫌われているだろうね。




 それからしばらくすると再び壇上にローランドさんの姿があった。

 その横にはマリーさんもいる。




「これかれお待ちかねの報奨金を渡そう。全員一律で金貨2枚だ」




「「「「「うおーっ!」」」」」




 全員の喜びが爆発した。

 金貨2枚とは大盤振る舞いだ。さすがワイバーン討伐達成だね。




 そして列に並び、ひとりひとりローランドさんから金貨が入った袋を手渡される。

 やがて僕とエリーゼさんも列に並び報酬を受け取るのであった。




「君がマキラか?」




 金貨の入った袋を受け取ったときだった。

 手渡してくれるローランドさんが僕に話しかけてきたのだ。




「はい、そうですが」




「ふむ。……君は後で私の部屋まで来てくれるか?」




「はあ。……わかりました」




 一体なんだろうか?




「そうだ。エリーゼも来てくれ」




「私もですか?」




 僕の後に列に並んでいたエリーゼさんもローランドさんにそう言われる。

 そして報奨金をすべて渡し終わった後、僕はローランドさんに手招きされて後を付いていくのであった。


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