第20話 ワイバーンとの激闘。

 

 黒い胡麻粒はだんだん大きくなる。

 やがて形もしっかりわかるようになった。

 うん、羽ばたく飛竜。間違いなくワイバーンだ。




「まずは魔法使いたちで地面に落とせ。どうせワイバーンを即死させることは難しい。地上に落としてから剣や槍で仕留めるぞ!」




 リーダーのライナスさんの指示だ。




「いいか、魔法使いたちは十分に引きつけてから魔法を放て。確実に当てられる距離まで接近させてから狙うんだ。遠すぎて外すと警戒されて厄介だからな」




 なるほど。

 射程距離ぎりぎりで魔法を放っても外れる可能性は高いし威力も減衰しているからダメージが少ない。

 ならば確実に当てられる近距離まで接近させて強いダメージを与えて落下させる作戦なんだろうね。




 やがてワイバーン5匹の姿が完全に視認できるまでの大きさになっていた。

 そして進行方向は間違いなくこのイチバーンメの街。

 まあ、人間が多数いるこの場所はワイバーンにとっては獲物だらけの場所だろうしね。




「……いいか。魔法使いたち、準備はいいな? まだだ、まだだ……」




 黒っぽいワイバーンたちの姿がいよいよ大きくなった。

 もはやその表情、目玉の向きまでわかるくらいに接近している。

 たぶんもう100メートルくらいまで近づいているだろう。




 僕を含め魔法使いは固まって配置している。

 火力を高めるために集中運用のつもりなんだろう。

 そして僕も周りに見習って杖を構えワイバーンの群れに向ける。




「まだだ、まだだ……」




 更に接近。もう50メートルを切った。

 ワイバーンの巨体がもう目の前だ。




「今だっ! 放てっ!」




 ライナスさんの号令一下、魔法使いから魔法が放たれた。

 火魔法の火弾、氷魔法の氷弾、そして雷魔法の雷弾……。

 それぞれがワイバーンの群れに襲いかかる。




 ぐわーんっ。ぐわーんっ。ぐわーんっ。




 魔法が激突する音が響く。




「「「「「グギャギャ……」」」」」




 そしてワイバーンたちの悲鳴。

 いくつかの魔法が命中し、ダメージを受けたワイバーンが失速する。




 だけど地面まで落下するものはいなかった。

 すべてのワイバーンにダメージを与えたんだけど、致命傷に至るような攻撃を受けた個体はいなかったようだ。




 そして僕たち冒険者の集団の真上を通過したワイバーンたちは上空で急旋回をする。

 もちろん僕たちを攻撃するためだろう。




「「「「「グギャギャ!」」」」」




 顔が怖い。

 完全に怒りモードになっている。

 そして群れは糸で繋がったかのようなきれいな編隊を組んで急降下を始める。

 狙いはもちろん僕たち冒険者だ。

 上から牙や棘で攻撃しようと姿勢を整い始める。




「……転倒」




 僕はこのとき初めて魔法を使った。

 それはもちろん僕には火魔法や氷魔法なんかが使えないからだ。

 近づいた相手にしか転倒魔法は使用できない。




 ――ツルリン。




 先頭を飛ぶワイバーンが魔法陣に捉えられ空中で転けた。

 いきなり浮力を失って真っ逆さまに地面に激突。

 よし、うまくいった。



「転倒」

「転倒」

「転倒」

「転倒」




 ――ツルリン。

 ――ツルリン。

 ――ツルリン。

 ――ツルリン。




 僕は連続で魔法を放った。

 そして残る4匹も失速し頭から地面に落下。




「よしっ! 落としたぞっ! 魔法使いは攻撃を続けろ。その後は剣と槍の出番だ。行けっ!」




 起き上がろうとするワイバーンたちだけど僕の転倒魔法の影響でなんども転んで起き上がれないでいる。

 そしてそんな中、各魔法使いの攻撃魔法が着弾してワイバーンの群れは悲鳴を上げる。




 そして魔法攻撃の停止をライナスさんは命じて、待ち構えていた剣士たちが抜剣してワイバーンの群れに突っ込んでいくのであった。




「「「「「うおぉぉっ……!」」」」」




 刀剣を武具とする前衛職たちが、立ち上がれずにもがき苦しんでいるワイバーンの群れに殺到する。

 そして首や心臓などの急所を確実に捉える。

 その中にはエリーゼさんの姿も見えた。高速で移動し手数の多さで攻撃しているのがわかる。




「「「「「……グゲゲ……」」」」」




 そしてものの10分も経過しないうちにワイバーンたちはすべて絶命したのであった。




「うおーっ!」

「やったぞっ!」

「俺たちの勝利だっ!」




 あちこちから勝鬨の声が響く。




 そんな中、僕は杖を支えにしてしゃがみこんでいた。

 緊張が解けて腰が抜けてしまったのだ。




 今回はうまくできた。

 でも毎回こううまくいくとは考えちゃいけない。

 師匠にいつも言われていることを思い出したんだ。




「坊主、大丈夫か?」




 見上げるとライナスさんだった。




「はあ、大丈夫です」




 僕がそう答えるとライナスさんはニカッと笑った。

 よく日焼けした顔になかなか似合う笑顔だ。



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