第19話 ワイバーン襲来。

 

「ちょっと歩くけど着いて来てね」




 そう行ってエリーゼさんは冒険者組合の建物前から歩き出した。




 ――そんなときだった。




 ――カンッカンッカンッ!――




 街中に鐘を叩く音が響いたのだ。

 警告を知らせる半鐘みたいに思えるね。




 なにごとだろうと顔を見合わせる僕とエリーゼさんの前を血相を変えた顔つきの男性冒険者たちが慌ただしく走り過ぎて冒険者組合の建物に入って行った。




「ただ事じゃないみたいね」




 難しい顔をしたエリーゼさんがそう口にした。




「お店、行かないんですか?」




 エリーゼさんが足を止めてしまったので僕は尋ねる。




「あの鐘の音は冒険者たちの非常呼集なのよ。このイチバーンメの街の冒険者はすべて組合事務所に集合することになっているの」




「……そうなんでか。……って、僕もですか?」




 エリーゼさんが頷いた。

 なんてこった。




 やがてあちこちから大勢の人たちが冒険者組合事務所の建物前に集まってきた。

 武器を持ち、防具に身を固めていることから全員が冒険者たちなのだろうね。

 その中には例の『怒涛の波濤』のパーティも揃っていた。やはり全員呼集なのは間違いない。




 そして50人くらいの冒険者が集まった。

 これがこのイチバーンメの街に所属する冒険者の全員なんだろうか。




 そしてしばらくしたときだった。

 組合事務所の扉が開きマリーさんが中年だががっちりとした体型の男性を伴って姿を見せたのだ。

 引き締まった顔立ちで顎にヒゲを蓄えている。




「諸君。ご苦労。よく集まってくれた。知ってる者もいるだろうが私がこのイチバーンメ冒険者組合の支部長であるローランドだ」




 支部長。初めて見た。ローランドさんって言うんだ。

 その佇まいからして元冒険者なんだろうね。いかにも強そうだ。




「緊急事態が発生した。先程、街へと戻る冒険者たちからの報告だ」




 集まった全員がゴクリと喉を鳴らした。

 この緊張感、スゴイよ。

 僕? もちろん緊張しているよ。




「――ワイバーンだ。ワイバーンの群れがこの街に向かっている」




「「「「「……えっ!!」」」」」




 どよめきが辺りを支配した。

 今まで無言だった冒険者たちが一斉に騒ぎ出したからだ。




「聞いてくれ」




 支部長のローランドさんの一言で冒険者たちが再び沈黙した。




「ワイバーンの数は5匹。ゆっくりとだが確実にこの街の南門へと進行しているのが目撃された。到着はおそらくあと2時間以内ってところだろう。冒険者たちは南門付近に完全装備で向かってほしい」




 ワイバーンは翼竜とも呼ばれる大型の飛行魔物だ。

 全長はだいたい5メートル以上もある凶暴な肉食獣。

 ドラゴンと違って前足が鳥と同じく翼になっているので腕の爪での攻撃はないけど、するどい牙と尻尾の棘が武器になっている。

 しかも尻尾の棘には毒があるって聞いたことがある。




「5匹。……やっかいね」




 エリーゼさんが言う。




「強いの?」




「ええ。私たちが50人いても死者は二桁は確実ね」




 ぞっとするほどの強さだ。

 もっと戦力は集められないのだろうか?




「えと、衛兵さんたちも戦ってくれるの?」




「衛兵たちも少しは援軍を出してくれると思うけど、それよりも彼らは街の住民の避難の方が優先される仕事なのよ。魔物が相手のときの主戦力はあくまで冒険者なの」




 なるほど。

 衛兵さんたちは治安維持が目的。

 対人間なら衛兵さんたちが動くけど、魔物相手は冒険者頼みなのか……。




 ■




 僕とエリーゼさんの姿は街の南門の外にあった。

 もちろん他の冒険者たちの姿もだ。




 そして僕たち全員は南の空をずっと凝視している。

 報告ならワイバーンの群れはそこから来るからだ。




「来たぞっ!」




 50人もの冒険者たちをまとめるリーダーに選ばれたAランクパーティのリーダーがそう叫んだ。

 確かライナスさんとかいう30歳くらいのごっつい男性だ。腰に佩いた武器からして、たぶん剣士なんだろうね。




 指差す先をみると青い空に黒い胡麻粒のようなものが5つ。

 うん、間違いなくワイバーンだろうね。




「……来たわね。マキラ君、覚悟は大丈夫?」




 すでに短剣を抜いて戦闘態勢に入ったエリーゼさんが僕に問う。




「……大丈夫。たぶんだけど」




 正直言えば膝はガクガクしていた。

 オークのときはそうでもなかったけどワイバーンは強力な魔物だ。

 聞けばBランク相当の強さらしいのでEランクの僕には不釣り合い。




 なので冒険者になんかなってしまったことを少し後悔した。

 ……でも、魔法使いの僕ができるのは魔法くらいなので冒険者しか道はなかったしな。




 いや、道自体はあるけど食堂とか宿屋とかパン屋の店員に魔法しか能がない僕が務まる訳がないし、第一、師匠を探して旅をすることを考えるとやっぱり冒険者一択しかないんだよね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る