第17話 強引な勧誘には天罰を。
そんなときだった。
ロビーの反対側の方からいきなり声がしたのだ。
「なんだ、エリーゼ。オークの群れを狩れるようになったのか?」
「なら、俺たちと組んでも大丈夫だな」
「仲間に入れてやるぜ」
「感謝しろよな」
酒臭い息とともに4人組の冒険者の男たちが登場した。
どうやらあっちの酒場で昼間っから飲んでいたらしいね。
見ると全員が禿頭だよ。要するにスキンヘッドだね。
目つきにも顔つきにも安らぎとか穏やかとかを一切感じられない。
つまりはガラが悪い感じだよ。
「お断りします」
エリーゼさんは凛とした顔をして返事をした。
「なんだとっ!」
4人組スキンヘッドの中でいちばん体格の良い男が気色ばむ。
たぶんこのパーティのリーダーなのだろう。
他のスキンヘッドとの区別なのか顎髭があるね。
「もう何度目ですか? 私、その度にいつもお断りしてますよね」
エリーゼさんがそのリーダーに向き直って言う。
その顔つきは真剣で、断固とした意思が感じられた。
まあ、女性ひとりでこの危なそうな連中とパーティは組みたくないよね。
冒険以外の別のことまで要求されそうだし。
女性なら身の危険をひしひしと感じるはずだよ。
「Cランクパーティの『
あー、やだやだ。
リーダーもそうだし、残りの3人の目つきが嫌だ。
下卑た目つきは下心むき出しに見えるよ。
エリーゼさん、美少女だから余計にそう思えるんだよね。
それにしてもこの『怒涛の波濤』ってパーティ、Cランクなんだ。
いちおうCランクから一人前って言われているらしいから実力自体はあるんだね。
あ、思い出した。
この連中、前に見たことあるよ。
僕が宿泊している『暴れ牛亭』の食堂で酒盛りしてた連中じゃん。
初見でガラが悪いと思った僕の印象は間違ってなかったってことだね。
「嫌です。お断りします」
スキンヘッドの『怒涛の波濤』の連中に凄まれてもエリーゼさんは意見を変えなかった。なかなか肝が座っている。
まあ、例え肝が座ってなくても、嫌なのは嫌だしね。
「このアマ!」
リーダー格の男がエリーゼさんに掴みかかろうとした。
だが、そこまでだった。
「転倒」
僕は小声で魔法を唱えていたのだ。
――ツルリン。
「うおっ!」
ドタンと派手な音を立ててリーダー格の男が床に転倒した。
足をツルリと滑らせたのだ。
「な、なんだっ」
自分がなにに躓いたのかがわからないようで首をひねりながら、リーダー格の男は立ち上がろうと膝を立てた。
――ツルリン。
ドタンと音を立てて再び男が転んだ。
しかも受け身が取れなかったようで床に顔面着地していたよ。
「うおっ……! 立てねえ、立てねえぞっ!」
――ツルリン。
男はまたまた転倒した。
「いったいどうなっていやがる? 立ち上がれねえっ!」
こうして男はなんどもなんども転倒を繰り返し、やがて息絶え絶えとなってしまった。
「なんの騒ぎですかっ!?」
受付カウンターの横からマリーさんが飛び出してきた。
窓口はそれなりに混雑しているのだが、この騒ぎなので気がついたらしい。
顔が怖い。
マリーさんは美人さんなので、怒ると普段のニコニコ顔から一変して
「いえ、……この方が勝手に転んだだけでして……」
この元凶とも言える、僕、……いや、元凶そのものの僕がそう言い訳する。
マズイよね。
エリーゼさんを助けるために行ったことだけど、騒ぎを起こしたことには違いない。
悪いのはスキンヘッドたちだけどさ。
僕はそっと転倒魔法を解除した。
なので転んでいたリーダー格の男はよろよろと立ち上がる。
顔だけじゃなくて耳も頭のてっぺんまでも真っ赤に染まっている。
恥ずかしさでいっぱいなんだろうね。
自業自得ってヤツだ。
「勝手に転んだ……の?」
「はい」
僕がそう答えると『怒涛の波濤』のリーダーは真っ赤のまま口ごもる。
「……そうなんだが、なにがなんだがわかんねーんだ」
マリーさんはその言葉に納得しかねるようでリーダーに詳しい話を尋ねたいようだ。
そしてマリーさんはリーダーの腕を掴むとカウンターの奥にある小部屋へと連れて行った。どうやらそこは個室になっていて細かい話を聞く部屋になっているみたいだね。
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