第16話 冒険者組合での買い取り。

 

「ふーん、大変なのね?」




「仕方ないです。師匠を見つけるまでの辛抱なんです」




 そう返事しながらも僕は残った3匹のオークの死骸を魔法収納袋に入れた。




「うわ。大容量。さすが魔法使いの師匠の持ち物ね」




 そうなんだよ。

 なんたって師匠はこの袋に屋敷を入れて移築したくらいだからね。




 それから僕たちはいろんな会話をしながらイチバーンメの街に向かった。

 エリーゼさんは見た目の通りの獣人で狼の種族らしい。

 確かに耳の形と尻尾の形は狼だね。頭髪と同じ銀色でかわいい。




 年齢は17歳で冒険者歴は3年のDランク。

 そして背の低い僕と違ってスラリと高身長で胸も大きくてスタイルもいい。




 並んで歩いているんだけど会話の端々でときどき目線が合う。

 すると僕は自分の顔が赤くなっているのに気づく。

 うん。エリーゼさん美少女だからね。ついつい意識しちゃうんだよ。




 ■




 街に到着した僕とエリーゼさんは仕事の報告とオークの買い取りのために冒険者組合に向かう。




 中はそれなりに混んでいた。

 僕とエリーゼさんはいくつかある列の中でいちばん少ない列に並んだよ。

 待つのは嫌だしね。




 そしてしばらくすると順番が回ってきた。

 受付嬢はなんとマリーさんだった。




「あら、エリーゼさん。報告ね。……えっとマキラさんもいっしょなのかしら?」




「あ、僕もエリーゼさんといっしょです」




「偶然出会って助けてもらったのよ」




 エリーゼさんは僕との出会い、つまりオークとの戦いの出来事をマリーさんに伝えた。

 その際にエリーゼさんの話が幾分誇張が入り、まるで僕が大魔法使いだったかのようになってしまった。




「ええっ! 5匹のオークを一網打尽だったんですか?」




「ち、違いますっ。トドメを刺したのは全部エリーゼさんですから、念の為」




 キラキラとした眼差しでマリーさんから見られてしまった僕は羞恥で真っ赤になりながら否定する。

 僕はそんなすごい魔法使いじゃないよ。使えるのは転倒魔法だけだしね。




 ちなみにだけど、今回のオーク討伐はエリーゼさんも依頼を受けた訳じゃない。

 偶然に鉢合わせただけだ。

 なので依頼料は支払われない。

 だけどオークは常時討伐依頼が出ているので、肉などの素材の買い取りは発生したとのことの説明を受けたよ。




「獲物がオークなら肉は買い取りでいいのよね? なら奥の買い取り所に先に行ってくれる」




 マリーさんはそう言いながら受付から身を乗り出して奥を指差す。




「わかったわ。そうするわね」




 もはや慣れているのだろう。

 エリーゼさんは僕に手招きするとロビーの横にある大きな開き戸に向かった。




「この奥に買い取り所があるのよ。オークとかの大きな素材はばらしたりする必要があるから狭い受付窓口じゃ無理だからね」




 扉を開けると屋根こそあるが壁は一切ない吹き抜けの空間があった。

 そこに巨大な作業台がいくつも設置してあり、ゴム製と思われる黒いエプロンを身に着け、大きな刃物を持った男たちが数人いた。




 男たちはどうやら解体専門の職員のようで、持ち込まれたであろう魔物の皮を剥ぎ、肉を切り出している。

 とても活気があって、掛け声が飛び交っているのは食肉市場のようにも見える。




「こんにちは。いいかしら?」




 受付と思われる作業台の前に立ったエリーゼさんが近くで作業をしている男性に声をかけた。

 男性は冒険者と見間違えるくらいに立派な体格をした人で年齢は50歳くらいに見えた。

 そして顔が怖いよ。絶対に怒らせたくないタイプだ。

 もしかしたら元冒険者で今はこの解体の仕事をしているのかもしれないね。




「なんだ、エリーゼじゃないか」




「こんにちはオズワルドさん。解体を依頼したいのだけど」




 どうやらエリーゼさんとオズワルドさんと呼ばれた男性は知り合いのようだね。




「今日はなにを持って来たんだ?」




「オークよ」




「オークか。何匹だ?」




「この人にも預かってもらっているのも含めて5匹よ」




「そりゃ大漁だな。あっちの作業台の方が広いから来てくれ」




 僕たちはオズワルドさんの案内で奥のひときわ巨大な作業台に向かった。




「じゃあ、出してくれ」




 そう言われたのでエリーゼさんが2匹、僕が3匹のオークと取り出して作業台の上に置いた。

 巨体をごろんごろんと重ねるように置いていく。



「見事に仕留めているな。もっと傷だらけなのが普通だが。……これなら肉がたくさん採れるから、買い取りに色を付けてやるぞ」




 ゴツい顔のオズワルドさんがニカッと笑顔を見せる。

 深く刻まれた皺が重なって、ちょっとワイルドな顔だね。




「オーク5匹、間違いなく受領した。後は受付に戻って手続きしてくれ」




 ここでのやることを終えた僕とエリーゼさんは組合の建物に戻り、受付でマリーさんに報告した。




「状態が良いオークが5匹と報告がありましたので、金貨3枚ですね」




 そう言ってマリーさんがカウンターの下から受領書と金貨3枚を取り出した。




「あ、金貨1枚分は銀貨でもらえますか? このマキラ君と分けるのに都合がいいので」



 キョトンとする。




「僕ももらえるのですか?」




「あったりまえじゃない。なに言ってるのかしら」




 不思議そうな顔をしてエリーゼさんが僕を見る。

 だけど僕はオークを倒していない。ただ転ばせただけだ。




「マキラ君が来てくれなきゃ、私は死んでいたかもしれないのよ。それにオークを足止めしてくれたのはマキラ君でしょ?」




「は、はあ……」




 なんとも納得できるようなできないような感じ。

 だけどエリーゼさんは強引に稼ぎの半分、つまり金貨1枚と銀貨5枚を僕に押し付けた。




「じゃ、じゃあ……ありがとうございます」




 ラッキー。臨時収入だよ。

 なんて気分にはなれなかったよ。

 なんだか申し訳ない気持ちになっちゃったんだよね。


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