第10話 ネコ探し。

 

 まず向かったのはネコ探しの方だ。

 依頼者の家にはすぐに到着した。

 石造り2階建てで庭が広いそれなりに立派な家だ。




 屋敷もきれいだし、庭木も手入れがちゃんとされている。

 きっとそれなりのお金持ちなんだろうね。




「すみませーん。冒険者組合の依頼で来た者なんですが」




 門扉を開けて庭を進み玄関扉に設置されているノッカーを叩きながら僕は声を出した。

 するとややあってから返事があり、扉が開かれると白髪をきれいにまとめて清潔そうな服を着たお婆さんが現れた。




「あらあら、あなたが冒険者なのね?」




「はい。まだなったばかりですけど」




 僕は組合の札(Fランク)を見せながら答える。




「それじゃ中に入って」




 僕はお婆さんに案内されて、この屋敷の客間に入ったのだった。




 客間には壁に絵画があり、棚の上には飾り皿や壺などが飾られていた。

 どれもセンスがありそうだけど、僕にはその良さはわかんないんだけどね。




 そして居合わせたメイドさんに命じてお茶とお菓子が用意された。

 冒険者相手なのに気さくな人らしい。




「いなくなったのはこの子なのよ」




 おばあさん(マチルダさんと言うらしい)が自分が座った背後の絵画の額を指差す。

 そこには一匹のネコの肖像画(?)が描かれていた。




「黒猫……。だけど耳だけが白いんですね」




「そうなのよ。ただの真っ黒な黒猫ではなくて、この子は両耳だけが真っ白なの。どう? 探しやすいでしょ?」




「そうですね」




 僕は素直に返事した。

 確かにただの真っ黒なネコだと他の黒猫と区別がつきにくい。

 だけど両耳だけが白い黒猫なら、まず間違いなく見分けがつくよ。




「クロちゃんて言うの。5歳のオス猫なのよ。3日前から帰って来ないの。一回だけうちのメイドが姿を見かけたらしいのだけど、逃げられてしまったのよね」




 マチルダさんは顔を伏せながらそう言う。

 きっとネコがいなくなって寂しんだろうな。

 肖像画にするくらいかわいがっているんだもんね。




 僕はいなくなったときの様子や、この辺りでネコが集まりそうな場所などをマチルダさんから聞き出した。




「では、探しに行ってきます」




「見たところ網とか持ってないけど大丈夫なのかしら?」




「はい。大丈夫です」




 僕の姿は三角帽子とローブと杖だ。

 確かに動物捕獲の道具を持っているようには見えないだろう。

 だけど僕にはこれで十分なんだよね。

 あとは見つけるだけだ。




 それから僕は得た情報を元に猫探しを行った。

 街を歩きながら見かけるネコを一匹一匹確認したんだけど、黒猫っているようであんまりいなくて、たまに見つけても両耳まで真っ黒でマチルダさんのクロちゃんではなかった。



「……ネコのたまり場に行ってみようかな」




 僕はマチルダさんに聞いたネコたちが集まっている場所へ目指した。

 そこは路地裏の空き地だった。




「うわあ、ネコがいっぱいいるな」




 なにが良くてこれだけ集まるのかわからないけど、そこにはネコが20匹以上いた。

 そこは四方を壁に囲まれた場所なんだけど日当たりがいい。

 だから気持ち良い場所ってことで集まっているのかもしれないね。




「あ、いた」




 たくさんのネコの中で一匹だけ、全身が黒くて両耳だけ白いネコの姿を見つけたのだ。

 これならもうすぐ依頼完了だ。

 僕はそっとクロちゃんに近づくことにした。




 ネコたちを刺激しないように身を低くして、一歩一歩ゆっくりと近づく。

 何匹かのネコたちが僕に気づいて、ニャーと鳴き声を上げる。

 そしてクロちゃんも僕に気づいて耳をピンと立て、両目を見開いて僕を見る。

 ちょっと警戒されているのかもしれないね。




「いい子だから、おとなしくしててね」




 僕は更に近づく。

 すると変化があった。

 クロちゃんがダッと逃げ出したのた。




「あ、逃げた」




 ネコは素早い。

 このままだとあっという間に僕の視界から消えてしまうよね。




 だから魔法を使うのだ。




「転倒」




 ――ツルリン。




 向こうへ向かって一目散で駆けるクロちゃんが地面に浮かんだ魔法陣の中でコロンと転けた。

 ものの見事に背中から地面にひっくり返る。

 四足は転びづらいって? そんなの僕の魔法には関係ない。

 いかなる者でも転ばすのが僕の転倒魔法だよ。




 クロちゃんはなにが起こったのか一瞬わからなかったようで、頭を上げてキョトンとしていたが、迫り来る僕を見て逃げようとした。




 が……。ツルリン。

 また転けた。




 それは僕が転倒魔法を解除していないから。

 解除しない限り対象物は永遠に転び続けるんだよ。




 立ち上がろうと足に体重をかけると途端にコテンと転ぶ。

 これが転倒魔法なんだよ。




「それ、捕まえた」




 僕は難なくクロちゃんを捕獲した。

 そして抱っこして逃げられないようにする。

 僕の魔法からは逃げられないよ。




 そして僕は依頼主のマチルダさんの屋敷へと向かった。




「もう見つけてしまったのね」




 今はクロちゃんはマチルダさんの胸に抱かれている。

 感動の再会の後にすぐにマチルダさんが抱っこしたからだ。




「これで依頼な完了でいいですか?」




「そうね。問題ないわ。またなにかあったらお願いね」




 マチルダさんはそう言って僕が差し出した依頼表にサインをくれた。

 これでこの依頼表を冒険者組合のマリーさんに提出すればすべて完了で依頼料がもらえることになる。




 こうして僕の初の冒険者の仕事が無事に終わったのであった。

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