第9話 初めての依頼受注。

 冒険者組合からちょうど20分くらい歩いたところで「暴れ牛亭」の看板を見つけた。

 石造り3階建てで大きさは中くらいかな? 客室が10くらいありそうな宿屋。




「こんばんは」




 僕は扉を開けた。からんからんとベルの音がする。

 入り口近くに宿のカウンターがあるんだけど誰もいない。

 僕は辺りを見回した。




 するとカウンターと反対側が食堂になっているのに気がついた。

 そこには10人くらいの客たちが座っていて、料理と酒と会話を楽しんでいる。

 魔物肉とエールが食卓の上に並んでいるのがわかる。




 全員男だった。しかもゴツいと言うか、身なりが怖いと言うか粗暴な印象を受ける客層だった。

 たぶん冒険者とかなんだろうな。脇に武器を置いているし……。



 そしてとにかく声がでかい。

 特にいちばん奥の丸テーブルについている4人組の男たちが騒々しい。




 全員が禿頭だよ。スキンヘッドと言うヤツだ。

 見た目が二十代だから年齢のせいでハゲになった訳ではなさそうだ。

 かなりガラが悪い印象を受けたよ。

 関わりたくない感じだね。




「あらあら、ごめんなさい」




 エプロンで両手を拭きながら厨房から中年の太った女性が出てきた。

 そしてカウンターの中に入る。

 たぶんこの「暴れ牛亭」の女将さんだろうね。




「冒険者組合で予約したマキラですけど」




「はいはい。伺ってるわ。素泊まりで一泊ね。大銅貨5枚よ」




 僕は魔法収納袋からお金を出した。




「二階の202号室ね。鍵はこれ」




 僕は礼を言って鍵を受け取り木造の階段を登った。

 造りが古いようで登る度にギシギシと階段が鳴る。




 そして部屋へ到着。




「割ときれいだ。思った以上だよ」




 部屋はそれほど広くないが、良さげなベッドと椅子とテーブルがある。

 テーブルの上にはランタンがあった。




 外はもう暗い。

 だから僕はランタンに火を灯す。

 室内がボウと明るくなった。




 僕はベッドに横たわった。

 しっかり手入れされたベッドでふかふかだ。

 思わず嬉しくなるね。




「明日は仕事を探すとして……。いつかは師匠が見つかるのかな……?」




 とりあえずの目的と最終目的を僕はぼんやり考える。




 それにしても師匠はどうして急にいなくなったんだろう?

 ある方からの呼び出し。ある方って誰?

 僕に直接告げる時間を惜しんでまで、空を飛んでまで、急がなきゃならない相手とその理由も。



 ……わからない。




 僕は師匠の交友関係とかいっさい知らない。

 物心ついてから師匠といっしょに暮らしていたんだけど、たまに来客があるくらいで師匠から遠くへ出向いたことはない。




 ……考えても無駄か。材料がなさすぎるしね。




 僕はそのまま眠りについたのだった。




 ■




 翌朝。

 目覚めた僕はそのままチェックアウトを済ませた。

 そして冒険者組合に向かったよ。




 昨日受付嬢のマリーさんから組合は明け方から開業しているって聞いたしね。

 なんでも遠出する冒険者も多いから朝早くから開けてないと駄目なんだって。




 街をてくてく歩く。

 この時間だと通行人は少ない。

 旅の人とかパン屋とかお店の納品なんかの朝から働かなければならない人ばかり目につくよ。




 歩いて20分。

 僕は冒険者組合に着いた。

 剣と斧と盾を組み合わせた図案の看板。間違いない。




 ドアを開けて中へと入る。

 そして僕は仕事募集の掲示板へと向かう。

 もちろん僕はFランクの求人を見る。




「あ、増えてる」




 そうなのだ。

 きっと昨日僕がこの冒険者組合を去った後に追加された案件があったのだろうね。

 僕はざっと眺めてみる。




「ペット探しが増えている。しかもみんな銀貨5枚以上だ」




 これは好都合だった。

 なぜなら僕の魔法とペット探しは相性がいいのだよ。




「これと、これにしようかな?」




 僕はペット探しの用紙2枚を掲示板から剥ぎ取ると受付に向かった。

 そこには昨日出会った受付嬢のマリーさんがいた。




「あら、マキラさん。おはようございます」




「おはようございます。マリーさん。この2件を受けたいんですが」




「拝見します。……行方不明のネコとオウムですね。確かに受領しました。

 期限は3日間ですのでがんばってくださいね」




 依頼には期限がある。

 その期間内に終わらせれば問題はなにもないんだけど、期限に遅れたり失敗したりすると減点されたり違約金を支払わなければならない場合もあるんだって。




 今回僕が受けたもので言えば、失敗するとポイントが減点されてランク昇級が遠のくのと、違約金を銀貨1枚支払わなければならないらしい。

 ま、たぶん大丈夫でしょう。




 僕は頷くとさっそく冒険者組合を後にした。

 そして依頼表に書かれている依頼者の住所と地図を見ながら歩き始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る