第8話 街の宿屋へ。
「ではどうでしょう? せっかく登録されたのですから、なにか依頼を受けてみませんか? お金も稼げますよ」
そう言ってマリーさんは一方の壁を指差す。
そこにはたくさんの張り紙がべたべたと無秩序に貼られてあった。
どうやら冒険者としての依頼がそこに掲示されているようだ。
「気に入った案件が見つかったら用紙を剥がして窓口に持ってきてくださいね」
そして僕は金属製の札を渡される。
「組合札です。これでマキラさんの身分と冒険者としてのランクがわかるようになっています」
「はあ」
「ちなみにマキラさんは登録したばかりなのでFランクです。なので受けられる依頼に制限があります。どれが受けられるかは依頼表に書かれてあるのですぐにわかると思いますよ」
マリーさんの説明によると冒険者のランクはFから始まり一番上がSランクのようだ。
全部で7つだね。
だがSランクは国に数人しかいないくらい少ないらしいよ。
そしてFから始めた冒険者は仕事の貢献によってランクが上がりFからEへ、EからDへとなるようだ。
Cランクになれば一人前扱いされるみたい。
ってことはほとんどの冒険者はDランク以下ってことになるね。
更にマリーさんが説明してくれる。
街の外での依頼を受けられるのはEランクから。
Dランクになると所属している国内ならどこの依頼も受けられる。
Cランクになると国外も可能なので商隊の護衛なんかの依頼受注が可能。
Bランク以上は特に条件はなく、実力と実績でAランク、Sランクになれるらしい。
「冒険者か……。師匠がどこに行ったのかわからない以上、お金を稼いで旅の準備をする必要があるね……」
僕はマリーさんに言われた通りに壁の掲示板に向かった。
そこにはランク別になっていて各種の依頼が貼ってある。
ちらりとSランクの張り紙を見るとそこにはドラゴン討伐の依頼があったよ。
いるんだねドラゴン。
Fランクの掲示板に到着した。
そこには10枚ほどの依頼があった。
「なるほど。……確かに街の中のお使いがほとんどだ」
見るといなくなったペット探しやごみ集積所の清掃、街路樹の剪定など街中での便利屋的な仕事ばかりだった。
「う~ん。……どれも微妙だね」
そうなんだ。
仕事自体はそれほど大変じゃないものばかりなんだけど、報酬が少ない。
どれもこれも大銅貨3枚から10枚程度なのである。
ちなみにと、さきほど見かけたSランクのドラゴン討伐は金貨100万枚だってさ。
たぶん豪邸を建てた上に一生遊んで暮らせる金額だね。
「まあ、明日でいいか」
僕はとりあえず仕事の受領は延期することにした。
今は夕方でまもなく日が暮れる。
その前に泊まる場所を確保しなければならないしね。
そんなときだった。
各ランクの仕事依頼の掲示板の並びに宿泊情報の掲示板があるのを見つけたのだ。
僕は宿泊情報の掲示板の前に来た。
ここにはこの街の宿屋の金額やら設備、場所などの情報が掲示されていたよ。
「安くてきれいでこの冒険者組合に近いところはないかな?」
ちょっと都合が良すぎる条件だと思ったけど、いちおう確認するよ。
でもここに近い宿屋はやっぱり宿泊費が高い。歩いて一時間以上離れた宿屋は安い。
まあ需要と供給ってやつだね。
それでもよくよく調べていくとなんとか条件に近い宿屋が見つかった。
歩いて20分。素泊まりで1泊大銅貨5枚。
明日以降は稼がなきゃ駄目だけど、とりあえず今日の泊まる場所は見つかりそうだ。
僕はその宿屋「暴れ牛亭」の掲示の紙を引き剥がし、組合の受付のマリーさんのところに持って行く。
ちょっと並んだけどすぐに順番が来た。
「ここに泊まろうと思うんですけど、今からでも大丈夫ですか?」
「連絡を取ってみますね」
マリーさんは受付に備え付けの魔導具を操作する。
「暴れ牛亭」に連絡を取るんだろうね。
やがて笑顔でマリーさんが話しかけてきた。
「素泊まりなら大丈夫です。夕食はもう受付が終わってしまったそうですけど」
「良かった。……あの、この宿は個室ですか? できれば雑魚寝は避けたいんですけど」
チビでやせっぽちなのが僕だ。ムキムキマッチョな冒険者の男たちと雑魚寝なんか絶対にやだもんね。
「大丈夫ですよ。ここは全部屋個室ですから」
「良かった。じゃあ予約をお願いします」
こうして僕は今夜の宿を確保した。
仕事の依頼は明日じっくり探すとして今日は寝よう。
僕は冒険者組合の建物をあとにした。
そして地図を見ながら「暴れ牛亭」を目指す。
途中、屋台で串焼きを売っていたからそれを4本買う。1本銅貨4枚でなかなかの味だったよ。
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