第7話 冒険者組合。

 

「なら冒険者組合で尋ねてみたらどうだい? 魔法使いなら冒険者登録しているはずだし情報がなにかあるかもしれない」




「なるほど。そうなんですね」




 僕はそれからも荷馬車に乗せてもらった。

 話を聞くと冒険者組合は商人組合の近くらしいのだ。




「じゃあ、見つかるといいね」




「いろいろとありがとうございます」




 冒険者組合の建物の前でハルトさんは僕を降ろしてくれた。

 僕が頭を下げると、ハルトさんは手を振りながら荷馬車を進ませるのだった。




 僕は振り返って冒険者組合を見上げる。

 石造りと木造を組み合わせた三階建ての大きな建物だ。

 入り口には大きな看板があって剣と斧と盾を組み合わせた図案のもので一目で冒険者組合だとわかるものだったよ。

 どうにも威圧感がある。




「頼もう」




 なんて威勢よく僕は扉を開けない。

 中の様子をうかがうようにこっそりと扉を開けて入ったよ。




「すごい人だ……」




 建物の中を見回す。

 正面には窓口がいくつもあって、それぞれの列に大勢の冒険者たちが並んでいた。

 時刻は夕方だ。

 どうやら本日の冒険の収穫物の買い取りを待っているらしくて騒々しい。




 更に騒々しいのが建物の左右だ。

 窓口を挟んで左右は食事処になっているようで、そこも大勢の冒険者たちがお酒と料理とそして会話を楽しんでいる。




 酔が回っているのもあって、みんな声が大きい。




「……なんか怖いよ」




 冒険者たちはその仕事柄、身体の大きな者が多い。

 しかも髭面だったりするので、どうしても猛獣を連想してしまうだ。




 僕は窓口の列に並んだ。

 なるべく空いている列にした。

 もちろんその方が早く順番が来ると思ったからだよ。




 そして二十分くらい待ったら僕の順番が来た。




「初めての方ですね。本日はどのようなご要件でしょうか? 私は受付係のマリーと申します」




 見ると二十歳くらいのきれいなお姉さんが窓口嬢として座っていた。

 紺色のベストという制服がとても似合っているし、笑顔が素敵な人族だ。

 金色の髪を編み込んでアップにしている。




「人を探しています。魔法使いのアルという人です」




「アルさんですか? 失礼ですがアルさんとはどういったご関係で?」




 関係か。

 ここは正直に言おう。




「アルは僕の師匠です。そして僕はいっしょに暮らしている弟子です。昨日から師匠が行方不明なのですが、この街に向かったと聞いたので、もし知っていたら居場所を教えて欲しいのです」




「お弟子さんですか?」




 するとマリーさんはカウンターの中で帳簿をめくってあれこれ調べていた。

 やがてなにかを見つけたらしく顔を上げて僕を見た。




「魔法使いのアルさんは確かに冒険者として登録されています。ですが個人的な情報を教えるにはあなたの身分を証明できるものを見せてください」




 身分証か。

 僕は持っていなくて街に入るときに入街税を払ったことを伝える。




「そうですか。なら今ここであなたも冒険者登録されてはどうですか? それなら身分を証明する組合の札を渡せますのでアルさんのことも教えられますよ」




 マリーさんがそう言う。

 なるほど。




「わかりました。では登録します」




 僕がそう答えるとマリーさんは一枚の用紙を取り出した。

 そこに僕は名前や職業(いちおう魔法使いだよ)、山奥の師匠の屋敷の住所などの情報を書き込んでいく。




「じゃあこれで指先を少し切って血判を押してください」




 え。

 このナイフで指切るの? 痛そうなんだけど……。

 でもこれは決まりのようなので仕方ないな。




 僕はナイフで指先を切った。

 チクリと痛みが走り血が丸い粒になって染み出す。




「ではここに押してください」




 僕は言われるままに申込用紙の右下に血がついた指先を押し付けた。

 すると用紙がボワッと一瞬だけ白く光った。

 どうやらこの申込用紙は魔法道具の一種のようだ。

 これで冒険者組合の魔法システムに登録されたのだろう。




「はい。これで登録完了です。魔法使いのマキラさんですね。……えっ、14歳なんですか?」




「はい」




 そう答えた僕の頭から爪先までマリーさんはじっと見た。

 ……悪かったね。背が小さくて……。




「コホン」




 場をとりなすようにマリーさんが空咳をひとつした。




「では、ご要望のあったアルさんの情報をお伝えします。……あれ、ああ。アルさんは昨日に確かにこの組合を訪れましたが、すぐに街を出たと記録にありますね」




「街を出たんですか? で、どこへ?」




「さあ、それはわかりません。ここには事務手続きに寄っただけみたいでした」




 なんてこった。

 振り出しに戻ってしまったよ。

 僕が呆然となってしまったのは言うまでもない。


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