第6話 街の中。
「身分証を」
衛兵さんに言われておじさんは商業組合の札を出した。
例の金属でできた薄い札だ。
「行商人のハルト。積荷は葡萄酒か」
「そうです」
おじさんの名前はハルトさんって言うんだ。
知り合ってからもう数時間経つのに初めて知ったよ。
衛兵さんは樽の蓋を開けて中身を確認して頷いている。
「で、そちらの少年は?」
「僕ですか? 僕はマキラと言います。山奥から出てきたので身分証はありません」
衛兵さんに尋ねられたので正直に答えた。
こういう場面で嘘はまずいことくらいは世間知らずの僕にでもわかる。
すると衛兵さんは僕にいくつかの質問をしてきたので、それに正直に答える。
「良かろう。では入街税として大銅貨1枚出しなさい」
「はい」
入街税はパン10個分もするんだね。
正直5枚しかない銀貨を早速くずすのは惜しいけど、仕方ない。
ところが、
「ああ、マキラ君。ここは僕が出そう」
「いいんですか?」
「なあに、さっきのお礼だよ」
そう言っておじさん、いやハルトさんが袋から大銅貨を出してくれた。
正直ラッキーだ。うれしいよ。
「ありがとうございます」
僕は素直に甘えることにした。
まあ、馬車の立ち往生のお礼と言われれば僕も引け目は感じないしね。
そんなこんなで門を無事に通過することができたのだった。
■
「わあ、すごい。建物も人もいっぱいだ」
街の中。
僕は荷馬車の上から眺める風景に感嘆の声をもらしていたよ。
道の両側には二階建て、三階建の石造りの建物が並んでいた。
壁はみんな同じ真っ白で赤い屋根が特徴。
一階はお店になっているのが多い。食堂とか衣類とか武器とか薬とかいろいろ。
道は石畳で舗装されていて、馬車がすれ違うのも苦じゃないくらい広いし、そこに大勢の人たちが歩いていた。
格好も様々で住民だけじゃなくて鎧を着た兵士たち、武器を手にした冒険者たち、店の前で呼び込みをしている商人たちも多い。
「あれ? あの耳?」
小さな女の子が母親に手を引かれて歩いている。
その子の頭にネコのような耳があり、母親にもあったんだよ。
茶色い髪の色と同色でふわっふわのモフモフだ。
「ああ、獣人だね。イチバーンメは大きな街だから人族以外にも獣人やエルフ、ドワーフなんかの亜人種も多いんだ」
ハルトさんがそう教えてくれた。
「そうなんだ。初めて見たよ」
僕も師匠も人族だし、里にも人間しかいなかったから亜人種なんて初めて見た。
そう言えば師匠の持っている本に獣人やエルフ、ドワーフなんかの絵が載っていたのを見た覚えがあるな。
僕は興味津々で女の子を見ていると耳がパタパタと動いて僕を見て手を振ってくれる。
かわええ。
僕は亜人種の友達が欲しいと思ったよ。
だってなんだか楽しそうじゃん。
モフモフの耳と尻尾触りたいし。
そしてしばらく荷馬車は通りを進む。
「ところでマキラ君はこれからどうするんだい?」
ハルトさんが話しかけてきた。
「師匠を探すのが目的なんですけど……」
「師匠って魔法の先生かい?」
「はい。この街を目指しているらしいんですけど」
「へえ、なんて言う魔法使いなんだい?」
「アルって言うんです」
「アルねえ。有名な魔法使いなのかい?」
「知りません」
僕は正直に答える。
だって山奥で二人きりで暮らしていただけなんだ。
師匠が有名かどうかなんて知らないよ。
「そうか。見つかるといいね? で、私はこれから商人組合に向かうんだけどマキラ君はどうするんだい?」
ハルトさんは運んできた葡萄酒を商人組合に売買するつもりとのこと。
「僕はとりあえず師匠を探します」
「この街は広いよ。あてはあるのかい?」
「いえ、……ぜんぜんないです」
そうだよね。
この広い街でたった一人の魔法使いを見つけるなんて雲をつかむような話だよ。
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