第4話 立ち往生。
集落を抜けてしばらく歩くと街道に出た。
もちろん石畳とかじゃなくて、踏み固められた土の道。
田舎だもん。
このまままっすぐ歩けばイチバーンメと言う街に出るよ。
ここの周囲は草原で辺りには大きな木はあまりなく、膝下くらいの丈の草が覆い茂っている。
空はどこまでも青く。ところどころに真っ白な雲がぽっかりと浮かんでいる。
「いい天気だ」
僕は旅があんまり快調なので、師匠を探すという目的を忘れてしまいそうになる。
いかんいかん。
それからも同じ風景がずっと続いた。
最初は物珍しさもあってワクワクとしていたんだけど、飽きた。
師匠の家とさっきの里くらいしか普段は出歩かないから、こういう広々とした景色に浮かれていたんだけど、何時間も続けば刺激的じゃなくなるのも仕方ないよね。
そしてしばらく歩き続けたときだった。
道の前方で一台の荷馬車が停まっているのが見えたんだ。
その荷馬車は道の真ん中で停車している。
ただの休憩には思えないよ。
「どうしたんですか?」
僕は声をかけた。
荷馬車は小さめで馬一頭でひく、屋根のないシンプルな型だ。
荷台には大きめの樽が3つほど乗っている。
そして馬車の車輪の前で途方に暮れた顔をしたおじさんがいた。
「いや、ね。立ち往生しちまったんだよ」
「立ち往生?」
おじさんが指差す先を見ると車輪が地面のぬかるみにしっかりはまっていた。
昨日は強い雨が降ったので深い水たまりができていたんだ。
「ぬかるみに車輪をとられてね。馬車が動かせないんだ」
なるほど車輪の下の部分がすっかり泥の中に埋まっている。
「樽をぜんぶ降ろせば馬車が軽くなって脱出できるんじゃないの?」
僕は思いつきでそう言った。
「いや、駄目なんだ。試してみたけど樽が重くてね。私ひとりじゃ降ろせないんだよ。だから誰かに助けてもらおうと思って待っていたんだけどね」
「すみません。僕じゃお力になれそうにないです」
僕は非力な少年だ。
とてもじゃないけど樽なんて持ち上げられないよ。
「先に行ってくれていいよ。大商人のキャラバンとかが来るのを待つしかないからね」
確かに大勢で隊列を組んでいる大商人のキャラバンならば、人は大勢いるし力自慢の護衛の冒険者たちもいるだろうから、その判断は正しいだろうね。
「じゃあ、すみません。お先に失礼します」
僕はペコリと頭を下げて立ち往生している荷馬車を追い抜いた。
そして十歩ほど進んだときだった。
ふと考えが浮かんだのだ。
「どうしたんだい?」
僕が戻って来たのを見て、おじさんが不思議そうな顔をした。
「えーと、もしかしたらですけど、お役にたてるかもしれません」
「本当かい? そりゃ助かるよ。でもどうやってだい?」
「魔法を使います」
僕はそう宣言した。
するとおじさんは不思議そうな顔をする。
あんまり魔法を見たことがないんだろうね。
「では行きます」
杖を泥に埋まった車輪に向けた。
「転倒!」
――ツルリン。
馬車全体を範囲とする魔法陣が地面に一瞬だけ光った。
そして馬車は車輪が埋まった位置から少しだけ真横に移動した。
「おおっ。馬車が乾いた土に移動した。すごい、さすが魔法だ」
おじさんが驚きの声を出した。
そうなのだ。
僕は馬車を真横に滑らすという転倒の応用で移動させたのだ。
「これならもう大丈夫だ。助かったよ」
おじさんは嬉しそうな顔をしたよ。
「どうだい? お礼と言ってはなんだがイチバーンメの街まで馬車に乗って行くかい?」
「ええっ、いいんですか」
「もちろんだよ」
こうして僕は馬車の荷台に乗せてもらえることになった。
これで歩かずにすみし、歩くよりも早くイチバーンメに到着できるね。
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