第3話 途中の集落にて。

 

 僕は森に囲まれた山道をしばらく歩いた。

 するとやがて視界が開け、麓の里に着いた。



 ここには十件以上家が立ち並ぶちょっとした集落で街への途中になる。

 店とかはない。

 狩猟やちょっとした畑作で暮らしている人たちが住んでいる小さな集まりだしね。

 こことはたまに薬草との物々交換で地元の人と交流して食べ物を手に入れることがある。


「おや? マキラじゃないかい。今日はなにかお使いかい?」



 顔見知りのおばさんが僕の姿を見て声をかけてきた。

 おばさんは集落共同の井戸で洗濯をしていたのだ。

 木製の洗い桶には洗濯途中の服が水に浸かっている。



「……ちょっと街まで」



「街にかい? お師匠さんはいっしょじゃないのかい?」



 おばさんは周囲を見回して僕が一人でいるのに気がついたようだ。



「って、どうしたんだい、その顔?」



 僕がずーんと落ち込んだ表情をしていたからね。



「……訳あって一人です」



 詳しい事情を言っても仕方ない。

 って言うか書き置きしかなかったから、僕自身も師匠の詳しい事情を知らないしね。



「そうかい? まあ、今からなら日のあるうちに街へは行けるだろうし気をつけてよ」



 そしておばさんは僕を見回す。



「ふむ。よく似合っているね。その格好なら、ナリだけなら一人前の魔法使いに見えるよ」



 まあ、その通りナリだけだけどね。

 三角帽子にローブ、杖の魔法使い三点セットだかんね。



「はい、ありがとうございます」



 この帽子、ローブはただの衣服じゃないんだ。

 魔法が付与されていて物理、魔法への耐性がある。

 そして杖もただ殴るためのものじゃないんだ。

 魔力を節約した上に威力を増大させる能力があるんだよ。



 それも高レベルの師匠用だから、今の僕にとっては完全にオーバークオリティ。

 未分不相応な装備と言えるよね。

 売ったら相当な金額になるかもしれないけれど、もちろんそんな予定はない。



「おお、マキラじゃないか?」



 声がした。

 振り返るとこの集落の長をしている中年のおじさんが鍬を持って立っていた。

 どうやら畑へ行く途中みたいだね。



「一人で街に行くんだってさ」



 おばさんがそう説明してくれる。



「一人で? そう言えば昨日マキラの師匠が街の方へと行くのを見たぞ」



「そ、そうなんですか?」



 良かった。

 さっそく師匠の行き先の情報が手に入ったよ。

 これで師匠へ一歩近づいた。



「歩いてですか?」



「いや、飛んでたな。杖にまたがってだ。急いでいる様子に見えたよ」



 よっぽどの急用だったのだろうか?

 いったい誰と会うんだろうね。ぜんぜん見当もつかないよ。



「じゃあ、僕も急ぎます」



 会釈すると再び歩き出し、わずか十件程度の集落を抜けたのだった。



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