第2話 グダグダからの決意。


堂々巡りの葛藤を僕はそれから一晩続けてしまった。

我ながら潔くないとは思うけど、やっぱりグダグダしてしまったのだ。



そして次の朝が来た。



「――決めた」



僕はベッドからすくっと立ち上がった。



――街に行くしかない。



そう決意したのだった。



正直に言う。

僕は師匠に依存していた。し過ぎるくらい依存していた。

経済的にも精神的にも。

親同然に思って完全に依存していたのだよ。



そしてそれが突然なくなった。

依存相手がいなくなり、世の中へぽーんとひとりで放り出されたんだ。

正直……凹む。



「そうだ。街に出て、それから師匠を探せばいいんだよ」



僕は膝をポンと叩いた。

どんな人物に呼ばれたのかわからないけど、ただ置いていかれるのは嫌だ。

だったら師匠を探す旅と言うのが良いだろうね。

これなら目的もはっきりあるし。



工房の中で辺りを見回す。

すると魔法使い用の帽子とローブ、そして杖が目についた。

これは師匠の予備だ。



これは旅支度のためには必要だろう。

僕は無断でそれらを拝借することにしたよ。

幸い師匠と身体の大きさはほぼ同じなのでサイズ違いで困ることはないしね。



そして僕はいちおう戸締まりだけはちゃんとして家を出た。

今から歩けば日の落ちる前には街に着くはず。



僕は三角帽子を被り、ローブを羽織り、右手には背丈ほどのごつごつとした木製の杖を持つ。

帽子とローブは地味な灰色だった。

これは僕にとって都合が良かった。



色が灰色なのは師匠が派手な色を好まないのが理由なんだけど、僕も目立ちたくないのでこの色は賛成だ。

これが真っ赤なローブだったりしたら絶対に身に着けないよな。



そして腰には魔法収納袋。

これは見た目以上にモノが入る魔導具で中身の重さは関係ないと言う優れもの。もちろんこれもやはり師匠の予備のもの。

中には着替えのための服や下着、パンや水筒、ポーションなどの薬草類などを入れた。



袋に入れられる上限はどれくらいあるのかは知らない。

だけど師匠が以前にこの家をまるごと収納して移築させたのを見ていたので、たぶん容量不足になることはないだろう。



「じゃあ行こう……」



こうやって僕は最初の一歩を踏み出すのだった。

空は春らしく晴れ渡り、綿のような白い雲がいくつも浮かんでいた。

絶好の旅日和だ。



だが、



「痛って~」



さっそく転けてしまった。

道にあった樹木の根っこに足を引っ掛けてしまったのだ。

幸いうまく転べたので怪我はないが、旅立ちの初っ端なのに縁起が悪い。



「……ったく。どうして自分の魔法と同じ目に合わなきゃならないんだ?」



立ち上がりローブについた土を払う。



そうなのだ。

僕は魔法使いなので魔法が使える。まだ見習いだけど……。



そして得意なのは転倒魔法。

って言うか、それ以外は使えない。それ以外はまだ教わっていないし、覚えていないのだ。



「とにかく街へ」



こうして僕は旅に出ることになったのだ。


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