第14話 予言成就
ここに勤めて六カ月が経過した。
いよいよ、明日は待望のボーナス日である。勤務期間から言って全額は出ないが、それでも相当有難い。この会社に来てからマトモなボーナスが貰える最初の日である。
心中浮き浮きとしながら時間を過ごす。古株の一人は、念願の最新式ポータブルパソコンが届き、うれしそうに試している。大型のホワイトボードも届き、この分室にも事務所としてのごちゃごちゃ感が生じて来た。
T氏がお昼を食べに行こうとしつこく誘ってくる。
ここのお昼は少し遠くの市役所の食堂を利用するか、近くのコンビニでパンを買って済ませることになる。
「コンビニに行こう」
T氏が強硬に主張した。え~。私はマトモな飯が食べたいのですが。
「いいじゃないか。コンビニに行こう」
じつにしつこい。
コンビニでパンを選んでいるとT氏は話を切り出した。
「うちの会社な。会社更生法を申請したぞ」
え?
ええええ~。
会社更生法が適用されるのは、倒産した会社だけだ。ということは、うちの会社・・・倒産!
「おれ、それ聞いたとき目の前が真っ暗になったよ」T氏が続けた。
私の目の前は真っ暗にならなかった。それより先に浮かんだのは、前の会社から引き抜きかけている友人たちの事だ。辞職の話がもし少しでも進んでいたら、大変にまずい。
自分のこと? そんなことはどうとでもなる。だから考えるのは後だ。後だ。
しかしなんだね。いずれ誰にも聞かされることをどうしてこうももったいぶるのかね。この人は。
私が慌てふためく様でも見たかったのか。
私の計算自体は悪くはなかった。このS社の倒産は、当時、県下でも珍しい黒字倒産として有名となった。
つまり、工場などの資産を計上すると黒字なのだが、運転資金がショートしたのである。新規に大きな工場を建設して増産に入ったところ、そこにバブルが弾けて、最大手からの発注がぱたりと止まった。工場の建設費がかかるところへこのタイミング。必死の金策も虚しく三か月で資金がマイナスとなったのだ。
発注を止めた最大手はこの機を逃さず、会社更生法の定める所のホワイトナイト、つまり後ろ盾となる会社に名乗りを上げた。
大成功。何もかも最大手の会社の総取りとなった。
この劇の裏に、何かの計算があったかどうかは、私の知り得ぬところである。
ともあれこうなると、多角経営を狙って作られた新規開発部門が生き残れるわけがない。我々の命運は決まった。しかもボーナス支給日の前日に計算して倒産しているのだから、ボーナスも無しである。
昨日ホワイトボードを納めた業者が慌てて回収に来た。まだ完全に未使用のホワイトボードを運び出す。
最新パソコンも箱に入れて送り返された。こちらは使用済だ。O氏推薦のスケベアニメがインストール済かどうかは不明である。
家に帰るとすぐに引き抜きを仕掛けていた友人たちに電話し、倒産の事実を告げる。幸い、まだ話は進んでいなかったらしい。
冷たい風が胸の中を吹き抜ける。悪魔のカードの予言は成就した。
これから先、私はいったいどうなっていくのだろう。
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