第1話

「黒いヒヨコ!」


 卵の、中から出て来たのは漆黒の羽毛を生やす雛鳥。


「ってか ここってドコなの」


 あたしって、穴に落ちたよね?


「魔王様もしかしたらメスかも」


 メス? ってあたしのことよね。

 よく見たら、トカゲみたいなのが立って話をしてるわ。

 コスプレ?


「しかし 初めてまともに生まれたからにはこのヒヨコを後継者にするぞ」


 トカゲ男の、目線の先に振り返って見る。

 でっデカい。

 なに、こいつ !!


「さっきから 誰がヒヨコよ

失礼しちゃうわね」


 どこを、どう見たら人間とヒヨコを間違えるのよ。

 食べられないように、虚勢を張る。


「ほれ 見てみよ」


 トカゲ男から、手鏡を受け取ると自分の姿を恐る恐る見てみる。


「うげっ

ホントに黒いヒヨコになっちゃった」


 なにコレ、あり得ないでしょ。


「これは 悪い夢よ !!」


 きっと、変なとこに頭をぶつけたんだ。


「多少 混乱しているようだな」


 そう、トカゲ男が言う。


「ハァハァ

わしは もう長くないようだ」


 苦しそうな、荒い呼吸をする魔王。


「魔王様 !!」


 魔王の、そばに駆け寄るトカゲ男。


「この者を ジョガリアⅢ世として

わしの後継者とするゲホッゲホッ」


 あたしを、指差してそんなことを言う魔王。


「えーッ

なんなのそれは!?」


 寝耳に水よ、そんなの。


「よろこべ

お前は 正式にジョガリアⅢ世と認められたのだ」


 トカゲ男が、そう言うんだけどさぁ。


「なんですかそれは ??」


 全然、話がわからないんだよね。


「産まれながらに魔王となったのだ」


 なんだよ。

 また、変なこと言って。


「イヤです」


 よろこべる話じゃあないっしょ。


「へッ ??」


 目が、点になるトカゲ男。


「なんで 魔王なんかにならなくちゃあいけないんですか

早く 元のところへ帰してください」


 キミらと、ゴッコ遊びしている場合じゃあないのよこっちは。


「いや 魔王なんて 簡単になれるもんじゃあないのよ ??」


 説明を、始めるトカゲ男。


「イヤです

絶対にイヤ」


 全然、聞く気がないんだけど。


「そんな 無茶言わないで下さい

新しい魔王様」


 媚びたような、声色を出すトカゲ男。


「やめてホントに」


 両手? 手羽先を振って拒否する。


「………ウッ

ウゥゥゥ」


 うめき声を、出す魔王。


「魔王様 !!」


 魔王の、巨大な頭に寄り添うトカゲ男。


「あとは 頼んだぞ

ピールモレス………」


 弱々しく言う魔王。


「魔王様ァアア !!」


 大声を、出すピールモレス。


「なんだか知らないけど

今のうちに逃げよう」


 トカゲ男の、名前がピールモレスとか言うらしいがそんなことより脱出しなくては。


「待ってくだされ

新魔王様」


 ソーッと、歩いていたがバレたみたいね。


「ギクッ

魔王って 魔界で1番強いってことでしょ? あたしなんか無理だよ」


 あたしは、スローライフがしたいの。


「いえ

現在 公に生存が確認されております魔王の中で あなたは12位となっております」


 妙に、冷静な語り口になるピールモレス。


「えっ 12位ってトップ10にも入ってないし

魔王って 今何人いるの ??」


 なんだか、拍子抜けしちゃうわ。


「確認されているのは12人です」


 真顔で、そう言うピールモレス。


「ってかビリじゃん !!」


 ショックだわ、いきなり。


「当然 産まれたばかりなので仕方ないです」

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