ハーレムなんていりません（困る

第四話 進撃の巨人が来襲中

「ういしょっと……ちぃっす。おいおいおいボッチくんよぉなんか辛気くせぇなぁ」

　気づけばノートＰＣを開いたまま事務所のテーブルに座ってウトウトしたようだ。

　早朝からオシャレ制服に身を包んだギャル風のＪＫに寝こみを襲撃されたせいで。

夜空け直後だったからタクシーを利用したようで生粋のお嬢さまはマジもんに困る。

　よくよく考えるとおかしなフレーバーみたいな芳香剤を悪用されたかもしれない。

屈伸しながら入口から顔をのぞかせる二メートル近い大男を見つめて時間が止まる。

「令司さんヤバい。初対面なんすから先いっちゃったら高坂くんがビビりますって」

　この声って間違いなくアレだ。裏ミナミで助けられた昔の同級生……城佳二くん。

　改めて男に目をやると高級スーツにひざ下までの白衣をなびかせたイケメンさん。

ぼさぼさ頭に無精ひげの際立つワイルドすぎる第一印象が真っ当な職には見えない。

「おぅ悪りい悪りい。二日ほど病院泊まりの研究三昧で睡眠不足が極まってんだよ」

　頭をガシガシとこする大きな体がまんまのヤンキーみたいにウンコ座りでヤバい。

「もしよろしければなんですが……奥にうちのシャワーあるんで使っちゃいます？」

　相談支援を請け負うための居宅介護と移動支援事業所だけど奥に水回りは整えた。

そのおかげというべきだろうか自宅を友人に貸して仮眠室で寝泊まりの毎日なんだ。

「おぅ。替えの下着だけいつでも用意してあっからシャワーだけでもありがたいね」

「トイレ左で右シャワーなんで給湯器微調整してください。タオルは自由にどうぞ」

「らじゃ。さくっと数分で済ませてくっからちょびっとおしゃべりでもしてくれよ」

　温水便座トイレと浴槽設置のないシャワールームだから誰でも見て使えるはずだ。

「あの夜以来で佳二くんびっくりした。シャワーしてるでかい令二さんって誰よ？」

「どこから話せばいいかなぁ。令二さんってそこの公立大病院で研究員してるんだ」

　マルシェから裏になる北を示す佳二くんを見て納得だ……噂に聴いた医学者さん。

本町通交差点の傍にあるビル一階カフェで話題になったダンジョンチームの関係者。

　佳二くんの語りによるとフィッシュオンの厨房でちょこまか動いた補助の美少女。

カノジョを料理人に育てたお婆さんが筋向いにある「おばぁの店」オーナーだった。

　大きな声で語れないが知能指数ボーダーラインにいる美少女は杵築ミナミちゃん。

直系の孫になる彼女に店の権利を委託した祖母は南国の小島で余生をすごすようだ。

　佳二くんが不動産管理を引き継ぐおばぁの店を別荘扱いに使おうと考えたらしい。

電気ガス水道は問題ないようで女性陣が先行して掃除しながら宴会の下準備中とか。

　いつのまにやら連絡先まで交換済の永依ちゃんご一行とＪＫ三人組の混成チーム。

そういえばギャルのリサが朝から使った怪しい芳香剤の出所永依ちゃんだろうなぁ。

「朝から強襲したリサが怪しい芳香剤持ちこんだんだ。佳二くん中身ってわかる？」

「怪しい芳香剤って一体なんだよ？　媚薬みたいなやべぇヤツだったりするのかな」

「そうそう。まだ真っ暗な時間に一人乗りこんできて寝こみ襲われそうになったよ」

「オレのことハーレムなんていうけどさ……そっちこそやべぇじゃん。捕まんぜぇ」

　それだけは冗談になんないから勘弁してください。捕まっちゃうと致命的すぎる。

「いやマジもんで困ってんだ。親から信頼されちまって公認みたいになっちゃった」

「おぉそれぞれ属性違いのキレイなお嬢さま三人組。はべらかしてハーレムじゃん」

「まもなく魔法使いになるんだぜ……三十路ＤＴだからハーレムどころじゃねぇし」

「はっはっは。メージくんそれなりにイケてんのに相変わらずつぅのか奥手だなぁ」

　電動車いすに座ったままでケラケラ笑う佳二くん。マジもんにむかつくんだけど。

「なんかおもしれぇ盛り上がりじゃん。魔法使いって三十路超えの童貞ネタだろ？」

　シャワー室に用意した純白のバスタオルで頭を吹きながらイケメンさまの登場だ。

「あとほんの数か月でミソジニーなんすよ。カノジョほしいなんて考えてませんが」

「二人とも周囲美少女だらけじゃん？　練習すんならうちの店いつでもきていいぜ」

　ニヤリほくそ笑む令司さんに誘われたんだけどこれって本気にして乗るべきかな？

「令司さんのお店……ミナミで超有名な姐さんのオッパブＧＪっすよね？　ヤバい」

　アイドル系の佳二くんが耳まで真っ赤にして興奮してる……これってマジなヤツ？

　男として素直に感動しながら喜ぶべきかな……据え膳食わねば男の恥なんだよね。

妙に後ろ髪を引かれるような気がするのはＪＫの三人組に遠慮みたいなヤツかなぁ。

　ふと見つめた前の佳二くんが車いすに肘を置いてロダンの考える人ポーズだった。

なんとなく含みがあるように双眸を眇めたイケメン令司さんの内心はわかりません。