第三話 仕事と趣味の境界線
「メージくん。あーしみたいな可愛いjk一緒にいるのになんかしたくなんない?」
リサちゃんの見た目だけ相当イケイケのギャルでも生粋のお嬢さまらしい挑発だ。
もちろん両親がそれぞれ恐れる共通項……男に対して認識の甘さが見え隠れする。
「違う違うそうじゃそうじゃない……ラッツの鈴木さんでもない。男の矜持だよ?」
質問に質問を返すようなネタで応酬しながら彼女の傍らにゆっくりとすり寄った。
その途端ギャルっぽい上から目線が剝がれ落ち見開いた双眸に恐怖の色が浮かぶ。
わざとらしいニヤニヤ笑いで腕を大げさに振りかぶって少女の肩に触れようとした。
ずざざざぁっと潮が満ち欠けしてフナムシが逃げるように後ずさるお子ちゃまだ。
「ほらほらリサちゃん。男と二人きり……不用意に密室で煽っちゃうのアウトだよ」
白歯をキラリとのぞかせるような笑みを意識しながら両腕を掲げた仕草で応じる。
平日の朝から男の寝起きに合わせてトッカンしてくる悪い子にはお仕置きがいる。
もちろん住民票に記載される自宅とは別に用意した事業所の仮眠……否で相談室だ。
介護福祉業界の慢性的人手不足による緩和策で訪問事業の大半が民間委託された。
一時補助金目当ての中小事業所が乱立して多くない客を奪い合い淘汰された現在だ。
ホントはやっちゃいけないんだけど使わない3LDKの住居を知人にレンタル中。
数分かからない位置のあべのベルタが大々的に建設されたのは昭和バブル全盛期だ。
立ち退きを強要された店舗や住民が移り住んだ高層階のマンションは老朽化した。
たまたま縁があり中古で購入した空間には子育て中の登録ヘルパー夫婦が居住する。
彼女一人できたことがないやもめ男だから事業所で仮眠することに不都合はない。
日中誰もいない空間で連絡はIP電話からスマホ転送で対応するから合鍵を渡した。
メトロ二駅の距離にある四天王寺女子からゆっくり歩いて三十分かからない近さ。
少女たちが息抜きする場所になればいいと貸し与えたのは失敗だったかもしれない。
まぁ男に慣れていないのは悪いことじゃないけど不用意に近づくのがマズすぎる。
これも行きずりの女にダマされる過ちを二度とやらないよう願いをこめたお芝居。
未だに距離感までバグる美少女たちに危機感を意識させることで戒めになればいい。
「なんで一人っきりで朝からここにいるかわかんないけど……急用あったりする?」
「…………メージくんさぁ。めんどくさい女に興味ないみたいな対応ヒドすぎねぇ」
うるうると淡い涙を浮かべたギャル……そのギャップが突き刺さると心が揺れた。
もちろん若さと美貌を理解しての熱演だろうと朴念仁みたいな男にも理解できるよ。
「なんとなくだけど恋愛的な意味。誘惑かなと思わなくもないけど……無理だよね」
「逃げなくていいあーしの誕生日すぎたし。こどもの日から成人したオトナだよ?」
なるほどおニャン子クラブだよなぁ……セーラー服を脱がさないでみたいな誘い。
男より女が性欲強かったりするし早く経験してオトナになりたいと流されるアレだ。
それにプラスして恋敵みたいな友達が傍にいるから焦る理由がわからなくもない。
吊り橋効果は恐怖で心拍が上がるドキドキ感を男にときめいたと勘違いするヤツだ。
一回り年の差……リサが逆に三十路ならほとんど問題なんてないがマジでヤバい。
「据え膳食わぬは男の恥」あの有名すぎることわざがそのまんま先に浮かんだけど。
据え膳は準備された食事。お膳で……女が積極的なら男は応じなければ恥になる。
外見について拒否する要素がどこにもない美少女で……もちろん性格は悪くない。
こちらに目線を合わせてチラチラ見上げながら頬を染めて……めちゃくちゃ可愛い。
「「ちょっと待ったあぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁつっっっ!」」いきなり大声が轟く。
あやしい魔法にかけられたようにギャルに招かれ近づこうとしたら絶叫が響いた。
ふと視線を合わせると玄関口から駆け寄る姿はいつもの二人……エリとマリアだ。
なんとなく周囲に漂うおかしな雰囲気……どこか隠微で芳醇な香りってヤバくない?
小柄金髪碧眼少女と清楚系赤メガネのマジメっ子がリアルギャルにトッカンした。
よくわからない流れなんだが……もしかして媚薬みたいな芳香剤をまかれたかな。
性欲の高ぶりみたいなモノはまったく感じないが雰囲気に流される自体おかしいよ。
あれかもしれない……毒蜘蛛が張り巡らせた見えない糸にからめとられたらしい。
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